■野生植物の特定は「時間との闘い」

 世界最大で最も名の知れた種子貯蔵庫は、ノルウェー領スバルバル諸島(Svalbard Islands)の炭鉱跡地の奥深くにある。島のおよそ1300キロ先は北極点(North Pole)だ。

「ノアの箱舟(Noah’s Ark)」とも呼ばれるスバルバル世界種子貯蔵庫(Svalbard Global Seed Vault)は、農業関連の植物が主な対象で、地球上のほぼすべての国から集めた種子のサンプルは100万種を超えている。

 しかし研究者らは、現在の農作物の起源である野生植物の種子の保存も忘れてはならないと言う。

 国連(UN)が最近発表した報告書によると、穀物栽培の近縁野生種は、遺伝的な多様性を担保し長期的には食料安全保障に資する可能性を秘めているが、「効果的な保護を受けていない」という。

 その結果、農業は気候変動や害虫、病原体からの影響を受けやすくなると同報告書は警鐘を鳴らし、人類全体が依存している生物圏は「人類史上かつてない速さで縮小している」と続けている。

 野生の植物は未来の医薬品や燃料、食料としての可能性を秘めていると、英キュー王立植物園(Royal Botanical Gardens, Kew)は昨年の報告書で指摘した。だが、そのうち5分の2程度が絶滅の危機にひんしている。生育環境の破壊や気候変動が主な原因だ。

 同植物園によれば、そうした野生植物を絶滅前に特定するのは「時間との闘い」だ。

 野生植物の種子に関する研究は「極めて乏しい」と、国立白頭大幹樹木園の上級研究者、ナ・チェソン(Na Chae-sun)氏は指摘する。

 同氏のチームは、種子を集め、X線検査や試験栽培も含めた綿密かつ広範囲なプロセスを通じて分類し、貯蔵庫に保管している。

「道端に咲いている野の花がなぜ大事なのかと尋ねる人もいるかもしれないが」と話し、「私たちの仕事は、そうした花を一つ一つ確認し、それがどれだけ重要か知ってもらうことです」と続けた。

「私たちが今、食べている作物も、もともとはそんな名もない花から生まれたものだったのかもしれません」 (c)AFP/Sunghee Hwang