【6月8日 AFP】テニス選手はラケットメーカーと深い関係を築いている。ロジャー・フェデラー(Roger Federer、スイス)はウィルソン(Wilson)と、ノバク・ジョコビッチ(Novak Djokovic、セルビア)はヘッド(Head)と、そしてラファエル・ナダル(Rafael Nadal、スペイン)はバボラ(Babolat)とだ。

 アマチュア選手たちは、彼らに少しでも近づこうと自らのアイドルと同じラケットを使おうとするが、男子テニス「ビッグ3」の用具に対するこだわりは非常に細かく、メーカーも細かな調整の秘訣(ひけつ)を公にしようとはしない。

 四大大会(グランドスラム)21勝目を目指し、全仏オープン(French Open 2021)を戦っているナダルは「ラケットはどの選手にとってもキャリアの生命線だ。腕の延長だよ」と話す。「結局のところ、感触はラケットを通じて伝わってくるし、ラケットに良い手応えがなければ成功をつかむのは難しい」

 ナダルはバボラのラケットを手に、世界各地のコートでショットを打ち込んでいる。バボラとの関係は9歳のときに始まり、長年コーチを務めた叔父のトニ・ナダル(Toni Nadal)氏と一緒に故郷の町でスポーツ用品店に足を踏み入れたことがきっかけだった。以来、35歳になる現在まで供給メーカーを変えたことは一度もない。

 バボラの最高経営責任者(CEO)を務めるエリック・バボラ(Eric Babolat)氏も、両者の関係は「彼の選手生活中、さらにはその先まで続いていく」と話している。

 ナダルは2020年の全仏で、自らの名前が入ったラケットを使って13回目のタイトルを獲得した。ラケットは、バボラがナダルと長年にわたって緊密に協力しながら開発したもので、中国製の複合カーボンのフレームは、ストリングなしで重さ約300グラム。このラケットは市販もされている。

 しかしナダル用のフレームはその後、仏リヨン(Lyon)近くのバボラのラボで専用の調整が行われる。カスタマイズに要するのは20〜90分、追加費用は150〜200ユーロ(約2万〜2万6700円)に上る。

 最初にカスタマイズするのはグリップで、太さや長さを微調整したり、溝を削って形を変えたりもする。次に細かい調整を行い、フレームやグリップに素材を付け加えてパワーやバランスの精度を高める。

 バボラのパフォーマンス研究所で働くエンジニアは、「オーダーメードのラケットで、さまざまな大きさやプレースタイルを試しながら、選手のニーズに合わせていく」と話す。

 具体的な設定は企業秘密。同エンジニアは「全ての選手に研究開発に関わってもらうのが理想だが、それは難しい。しかしながらラファはラファで、彼のフィードバックは非常に興味深く豊富だ。ドミニク・ティエム(Dominic Thiem、オーストリア)にも同じことが言える」と語った。

 もっとも、工場製の魔法の「つえ」を求めるプロ選手、アマチュア選手にとっては残念な知らせもあり、同エンジニアは「理想のラケットというものは存在しない」と話している。(c)AFP/Igor GEDILAGHINE