【6月4日 東方新報】中国・雲南省(Yunnan)で野生のアジアゾウの群れが北上を続け、農産物を食い荒らしたり、住民が避難したりする騒ぎとなっている。移動距離は、東京-大阪間と同程度の500キロ。農産物などの経済被害は680万元(約1億1701万円)に上る。中国の法律では野生動物による被害は地元自治体が補償することになっており、各地ではゾウによる被害と経済補償の両方を恐れている。

 ゾウの群れはもともと、ミャンマーとの国境に近い雲南省シーサンパンナ(Xishuangbanna)・タイ族自治州の国立自然保護区に生息していた。昨年春ごろに北進を始め、今年4月に15頭が北東400キロの雲南省玉渓市(Yuxi)に入った。近隣住民は避難し、警察官が出動。ゾウはさらに北上し、人口800万人を超える昆明市(Kunming)に数キロまで迫った。中国でアジアゾウは中国国家一級重点保護野生動物に指定されており、警察や役所はゾウを傷つけないようドローンで遠方から監視し、市街地に入らないようトラックで道をふさいでいる。

 アジアゾウは中国では雲南省のシーサンパンナ・タイ族自治州、プーアル茶で知られる普洱市(Puer)、臨滄市(Lincang)に生息する。長年の保護活動により1970年代の100頭から300頭に増えたが、中国メディアは「ゾウが増えた一方で保護区のエサの植物が減り、エサを求めて迷走しているのでは」との専門家の分析を伝えている。

 アジアゾウはメスの大人がリーダーとなって群れを作っている。国立自然保護区では例えば、花の模様のような白い斑点が鼻にあるメスがリーダーの群れを「花鼻の一族」と呼んでいる。今回北上を続けている群れのリーダーは鼻が生まれつき短く、「短鼻の一族」とも呼ばれている。この群れによる器物の破壊は400件を超え、約56万平方メートルで農作物に被害が出た。中国の「野生動物保護法」では、野生動物による被害は地方自治体が補償するとしている。しかし、県(日本の市に相当)や鎮(日本の町に相当)など小規模で予算基盤の弱い自治体では、早くも「補償は困難」という声が出ている。

 中国中央に位置する中華文明発祥の地・河南省(Henan)は古くから「豫州」といわれ、「象」の文字が使われていた。アジアゾウはかつて中国の広範囲に生息しており、気候の変化や環境の悪化、そして人間による駆逐から、現在は最南部にのみ生息している。今回の群れの北上は、アジアゾウが中国の「片隅」に追いやられている境遇を訴えているようにも映る。(c)東方新報/AFPBB News