■検査や法執行の対象外となる「便宜置籍船」

 中でも最悪の事例が確認されているのは、台湾所有の遠洋漁船が、規制が少ない国から「便宜船籍」を得て台湾領海外で操業しているケースだ。台湾の遠洋漁船は、当然ながら台湾の雇用規則に従わなければならないが、便宜置籍船は公的な検査や法執行の対象外となる。

 台湾政府の漁業署は、強制労働や人身売買に関する関連規則を「適時に」改定する「行動計画」を台湾政府に提出するとした。

 しかし、同政府の監察院(Control Yuan)の5月上旬の報告によると、漁業署や他の省庁は漁業での人権侵害を認識していながら、何ら具体策を講じていない。

 出稼ぎ船員を支援する台湾の労働組合、宜蘭県漁工職業工会(Yilan Migrant Fishermen Union)の李麗華(Allison Lee)氏はAFPに訴えた。「政府は体裁を取り繕っているだけだ」

 出稼ぎ労働者の船上での死亡事例が確認されているが、多くの場合は不審な状況下だ。

 2015年、インドネシア人漁船員のスプリヤント(Supriyanto)さん(47)が死亡した件では、世界中で抗議の声が上がった。

 当初は病死とされたが、乗員仲間の証言と動画によって痛ましい事実が明らかになった。

 スプリヤントさんは、台湾人の船長に頻繁に殴打されていた。船長はスプリヤントさんに対し「(漁具で)頭を殴り、ナイフで足を切り、他の乗員に殴らせていた」と李氏は話す。

 だが、この件では、まだ誰も訴追されていない。

 2019年には、別の漁船で19歳のインドネシア人が死亡する事例が起きた。乗員仲間によると、前日に台湾人の職員に殴られていた。「船長が遺体を毛布でくるんで冷凍庫に入れた」と、乗員の一人は環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)に匿名で証言している。

 この船「大旺(Da Wang)」はバヌアツ船籍だが、米政府は同船を制裁対象のブラックリストに載せた。大旺は昨年、台湾の高雄(Kaohsiung)で停泊していた際に台湾検察当局の調査を受けたが、出港禁止処分を受けることはなく、1か月後に公海へ戻った。

 大旺などのケースは、台湾当局が虐待を黙認していることの表れだと李氏は指摘する。

「船上での処遇には多くの問題があるが、彼らは誰にも助けを求められない」と李氏は話した。

 映像は2020年12月に取材したもの。(c)AFP/Amber Wang in Taipei and Ron Lopez in Manila