【6月2日 People’s Daily】中国福建省(Fujian)福安市(Fu’an)で山と海に囲まれた下岐村。歴史的に有名ではないこの村は、今では「海から陸に上がった村」として知られ、地域の特性を生かした発展の道を駆け足で進んでいる。

 二十数年前、下岐村は「名前だけの存在しない村」だった。村民は船の上で暮らし、魚を取って生計を立てていた。現在、村を訪れると、建物がずらりと並び、四方八方に道路が延びる光景が広がる。各家庭のドアには平穏な暮らしや幸福をたたえる張り紙がしてあり、充実した「陸地での生活」を感じさせる。

「連家船民(家族で船に暮らす民)」と呼ばれていた当時、その生活は過酷だった。

「うちの家族は6人で14平方メートル足らずの船上で暮らしていました。船底には半分は釣った魚、半分は日用品が置かれ、夜は甲板で寝ました。雨が降れば水浸し。台風が来れば命を落とす恐れもありました」。村民の江成財(Jiang Chengcai)さんが振り返る。

 村党支部の鄭月娥(Zheng Yue’e)書記も「両親は魚を取っている間、子どもの私を船と縄で結び、海に落ちないようにしていました」と話す。

「連家船民」の暮らしに新しい扉が開いたのは1997年。福建省の脱貧困政策により、下岐村の村民のため地上に住宅を建設するプロジェクトが始まった。「以前はでこぼこした船の板で寝ていたのが、しっかりした床の上で寝られるようになった。最初は慣れませんでしたが、こうこうと照らす明かりやしっかりした壁の中で横たわり、風雨にさらされた30年間の生活が終わったんだと痛感しました」。地上生活の最初の夜、江成財さんは興奮して寝られなかったという。

 1997年から1999年にかけ、下岐村の村民のため339棟が建設され、2310人が移住した。現在は3571人の村民全員が「屋根もない、地面もない」暮らしと別れを告げている。

 住まいだけでなく、暮らしも豊かになった。福安市は漁業や養殖、海上運輸、観光など22項目にわたる支援措置を図った。江成財さんは村で貝の養殖研修に参加し、二十数人の村民をまとめて100ムー(約6万6700平方メートル)の面積で養殖を始め、村民の平均年収は7万~8万元(約120万~137万円)に達した。さらに30人以上の村民を束ねて建設工事を担い、村に富と繁栄をもたらすリーダーとなった。

 2012年から党支部書記となった鄭月娥さんは「大海に出て富を得る」ことが重要任務となっている。海水魚の養殖や水産物の卸売り・加工に力を入れると同時に、「連家船民」の暮らしを伝える観光地化を進めている。村人の平均収入は1999年の1000元(約1万7150円)から2019年には2万3000元(約39万4450円)を超え、すべての村民が貧困水準から脱却した。

 今後は村に冷凍倉庫を導入し、「海鮮ストリート」を設ける予定。海から陸に上がった人々の暮らしは、今後さらに充実していく。(c)People’s Daily/AFPBB News