【6月9日 AFP】北朝鮮はサイバー戦争の最前線に進出して多額の資金を略奪し、今や核兵器開発よりも明確で現実的な脅威になっていると専門家らが警鐘を鳴らしている。

 北朝鮮は、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)朝鮮労働党総書記の下で核ミサイル開発を急速に進め、さまざまな経済制裁を科されている。国際社会は北朝鮮の核開発計画に目を光らせてきたが、その陰で同国はひそかにサイバー攻撃能力を増強してきた。専門家によると、特別な訓練を受けた数千人のハッカー部隊が存在し、核武装に劣らず危険だという。

「北朝鮮の核・軍事計画は長期的な脅威だが、サイバー攻撃は差し迫った現実的な脅威だ」と韓国国家安保戦略研究所(Institute for National Security Strategy)のオ・イルソク(Oh Il-seok)研究員は指摘する。

 北朝鮮のサイバー攻撃能力が世界で初めて注目されたのは2014年。金総書記を風刺した米映画『ザ・インタビュー(The Interview)』を制作したソニー・ピクチャーズエンタテインメント(Sony Pictures Entertainment)に同国が報復としてサイバー攻撃を仕掛けたとされた。

 これ以後、北朝鮮は世界の注目を集めたサイバー攻撃に関与してきたとされる。

 関わりが疑われる件には、2016年に起きたバングラデシュの中央銀行からの8100万ドル(現在の為替レートで約89億円)の窃盗や、翌年のランサムウエア(身代金要求型ウイルス)「ワナクライ(WannaCry)」による150か国、約30万台のコンピューターへの被害などがある。

 北朝鮮外務省は一切の関与を否定してきた。ワナクライ攻撃を仕掛けたのは北朝鮮だとする米国の主張は「ばかげている」と一蹴した。

 しかし米司法省は今年2月、「一連の破壊的なサイバー攻撃を行う広範な共同謀議に加わった」として北朝鮮人の3人を起訴した。

 米国家情報長官室(ODNI)の「年次脅威評価報告書(Annual Threat Assessment Report)」2021年版は、北朝鮮には全米のいくつかの重要なインフラ網を一時的に混乱させる専門的技術があると思われ、同国のサイバー計画が及ぼす脅威は「諜報(ちょうほう)、窃盗、攻撃面で増大」していると指摘。金融機関や暗号資産取引所から数億ドル(数百億円)を盗んでいるのは「おそらく、核・ミサイル開発といった政府の優先事項の資金を調達するため」との見方を示している。