【6月1日 AFP】中国でスパイ活動の罪に問われているオーストラリア国籍の作家・学者のヤン・ジュン(楊軍、Yang Jun)氏(56)が、拘束中に拷問を受けたと支援者らに述べていることが明らかになった。ヤン氏は、どの国のスパイとして訴えられているのかさえ分からないとも述べている。

 中国生まれで、ヤン・ヘンジュン(楊恒均、Yang Hengjun)名義で文筆活動をしているヤン氏は、中国当局にどこかも分からない場所で2年以上にわたって拘束され、虐待を受けたと主張している。

 ヤン氏の裁判は5月27日に北京の裁判所で始まったが非公開で、豪大使の傍聴は認められなかった。

 ヤン氏はAFPが確認した支援者へのメッセージで、「最初の6か月間は(中略)本当にひどい時期だった。拷問を受けた」と述べた。「刑務所よりもひどい場所で、もう2年以上拘束されている」

 また、歯科疾患があるため2本の歯でしか食事ができないと言い、初公判では「疲れて混乱」しており、「十分に話す気力がなかった」と述べた。「3~5分しか話せなかった。うまく答えられなかった」

 一方、自分は「100%無実」だと主張し、取り調べの記録を破棄させようとしたが、できなかったと述べた。

 ヤン氏は、当局が「隠しカメラ」を使用したことを非難し、「これは違法だ。拷問だ」と述べた。「尋問中に自白を迫られた。(中略)誰かが報復しようとしているのかもしれない」と述べた。

 また、証拠提出や証人尋問を求めたが、認められなかったとも述べている。

 中国当局はこの裁判について、「国家機密」に関わるため合法的に非公開審理にできると主張し、関係が悪化しているオーストラリアが「干渉」していると批判している。

 ヤン氏は、どこの国のスパイとして訴えられているのかさえ分からないとも主張している。「(自分が問われているのは)イデオロギーの罪ではなく、スパイ活動の罪だ。だが、私は誰のために活動していたというのか? これが犯罪で、私が犯罪者だというなら、私は誰のために活動していたというのか? 私はオーストラリアや米国のために活動したことはない」

「私は人々のために書いているだけだ。法の支配、民主主義、自由のために書いている」

 ヤン氏は、かつて海南(Hainan)省で中国外務省に勤務していたと報じられているが、中国政府はこれを否定している。

 1992年に中国本土から香港に渡り、その5年後に渡米し米シンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」に就職したとされる。

 中国政府は二重国籍を認めていないが、ヤン氏はその後、オーストラリア国籍を取得し、スパイ小説シリーズや中国語による人気ブログを執筆している。(c)AFP/Andrew BEATTY