【5月30日 AFP】レバノンの首都ベイルート在住のイブラヒム・ディカ(Ibrahim al-Dika)さん(26)は経済危機で失業し、銀行から受けた融資を返済するために、子犬の頃から育ててきた雌のベルジアン・シェパード「レクシー」を売りに出さなければいけなくなった。

「車や携帯電話を売ったんじゃない。魂を売ったんだ。自分の一部を売ってしまった」

 レバノンでは過去数十年で最悪の経済危機によって、多くの人が失業もしくは大幅な収入減に直面している。

 動物愛護運動家らによると、ペットの餌の入手や新たな飼い主探しで支援を求める人が増えている。ペットを売ったり、最悪の場合、捨てたりする飼い主も増加しているという。

 父親を病気で亡くしているディカさんは昨年、雇われていた衣料品店が閉店し失業。母親と兄弟を経済的に支えるのが苦しくなった。銀行からの督促が始まると、レクシーを売るしかなくなった。

 レクシーを売ってから数日後、ディカさんが車で様子を見に行くと、レクシーは家に帰れると思ったようだった。「私の車に真っすぐ飛び込んできた」とディカさん。「私を見るレクシーのあの目に、心が痛んだ」

 人口の半数以上が貧困状態で生活している今、多くのレバノン人は非政府組織の支援に生活を頼らざるを得ない。ペットにあげる餌もだ。

 レバノン南部で活動する動物保護団体「ウーフ・アンド・ワグス(Woof N' Wags)」のシェルターで、ボランティアのガーダ・ハティブ(Ghada al-Khateeb)さん(32)は雌の犬を見守っていた。犬は薄汚れた白い布にくるまれてハティブさんの隣に横たわり、弱々しく呼吸していた。近所のごみ捨て場から救出したのだという。

 ペットの飼育放棄は増加していると、ハティブさんは言う。「もはや誰も犬に餌をやる余裕がない」

「ペットを手放す人たちは、ここに来ると『自分の子どもが最優先だ』と言う」

 ウーフ・アンド・ワグスの創設者ジョー・オクジャン(Joe Okdjian)さん(28)は、さらに多くの寄付を切実に必要としていると訴えた。施設では90匹の犬の面倒をみているが、「1~2日、餌をやれないこともある」と話す。

 映像前半はウーフ・アンド・ワグスのシェルターにいる犬たち、4月30日撮影。後半は動物保護団体「アニマルズ・レバノン(Animals Lebanon)」の事務所前に捨てられた猫や同団体に保護された猫たち、4月28日撮影・一部は同団体提供。(c)AFP/Alice Hackman