【6月14日 AFP】バッシャール・アブ・カリル(Bashar Abo Khalil)さん(31)のキャラクターは、ピンク色のドレスと侍のかぶとを身に着け、壁の周りを疾走し、フライパンで敵と戦う──イラクで大人気のビデオゲーム「PUBG」内では、ありふれた光景だ。

 多くのイラク人をとりこにしている「PUBG」は、書籍や映画の「ハンガー・ゲーム(The Hunger Games)」シリーズを連想させるバトルロイヤル型のファーストパーソン・シューティングゲーム(主人公の視点でプレーするゲーム)だ。「G2G」の名でスタープレーヤーとなったアブ・カリルさんも、PUBGにハマった一人だ。

 4000万人あまりの人口の60%が25歳未満のイラクでは、モバイル版のPUBGが大人気で、若者は「PUBG世代」と呼ばれている。

 アブ・カリルさんは現在トルコに住み、プレー映像の配信と動画の制作で生計を立てている。

■ネット環境良く、チャンス増える国外

 イラクでは、PUBGは時間泥棒だと批判したり、銃や血しぶきといった暴力的なシーンを不安視したりする親もいる。

 しかし、モバイル版でプレーしているクルド人のレシャール・イブラヒム(Reshar Ibrahim)さん(19)は、数十年におよぶ戦争や内戦で多くのイラク人が体験した実際の出来事の方がずっとひどいと言う。

 スウェーデンで暮らして3年になるイブラヒムさんは、PUBGは「ただのゲームだ」と言う。

 イラク国会は2019年、破産や自殺、離婚の引き金になるという国内の報道を受け、PUBGの禁止を可決した。

 しかしこの動きは、法に抜け穴が多かった上に、イラクには他に対処すべき重大な問題があるとして批判された。

 世界銀行(World Bank)によると、イラクでは若者の40%近くが失業中だ。さらに、貧困率は新型コロナウイルスの流行の中で倍増し、40%に達した。

 多くのイラク人ゲーマーが、国内の劣悪なネット環境や不安定な電力供給から解放され、アブ・カリルさんやイブラヒムさんのように外国で成功している。