「道半ば」の中国の盲導犬 1700万人の視覚障害者に200頭
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【5月24日 東方新報】北京市に住む全盲のピアノ調律師、陳燕(Chen Yan)さんにとって、4歳半の盲導犬「黒萌萌(Hei Mengmeng)」は大切なパートナーだ。ピアノのある家や施設を回る陳さんの移動を支え、時には何時間も食事や排せつをせず主人を待ち続ける。陳燕さんは「私はいつも街中を移動しているので、この子の存在はなくてはなりません」と話す。
中国視覚障害者協会によると、中国には1700万人の視覚障害者が生活している。オランダの人口とほぼ同じだ。このうち子どもや高齢者を除き、就業年齢の視覚障害者は900万人にのぼる。一方、中国で盲導犬の育成は始まってまもなく、中国全土でまだ200頭しか活動していない。
陳さんは「私が2011年に盲導犬を使い始めた頃はバスに乗ることもレストランに入ることもできず、ほとんど外出できませんでした。盲導犬が人を傷つけたり、おしっこをしたりするのではと考える人が多かったからです。私はいつも『みんなが冷たいのではなく、理解していないだけ』と思うようにしてきました」と振り返る。
北京市東城区(Dongcheng)視覚障害者協会会長の陳さんは執筆活動やSNSなどを通じ、社会に理解を呼びかけてきた。最近では交通機関や公共施設で受け入れを拒否されることはなくなった。陳さんはぜんそくのため年に2、3回入院が必要だが、黒萌萌の付き添いも認められるようになった。
中国では2012年にバリアフリー環境建築条令が制定され、障害者が盲導犬を連れて行動できるよう、自治体に対策を求めている。
民間でもサポートの動きは広がっている。タクシー配車アプリ「滴滴出行(Didi Chuxing)」は昨年9月、「バリアフリー移動サービス」を開始。スマホのアプリを音声読み上げで操作できるように改善し、「盲導犬を連れた乗客に最大限のサービスをする」として滴滴出行から認証を受けたドライバーが視覚障害者のもとに駆けつける。認証ドライバーは全国74都市で180万人に達し、障害者と盲導犬に適切なサービスをすると優良ドライバー認定と1件10元(約169円)のボーナスも受け取る。
一方で、全国的に盲導犬の理解が浸透しているとはいいがたい。「盲導犬を見ると、バスやタクシーがドアを開けず、そのまま立ち去っていった」という問題は今も全国で起きている。インターネットでは「盲導犬は1頭育てるのに20万元(約340万円)も必要とする『ぜいたく品』だ。ハイテクを駆使した電子杖(つえ)を開発した方がいい」という書き込みがあり、2万7000件の「いいね」がつけられたこともあった。
2006年に大連市(Dalian)で初めての盲導犬養成学校が誕生し、現在は数校に増えた。地元自治体も補助金を支出しているが、それでも毎年「卒業」する盲導犬は1校で数頭から数十頭にとどまる。中国視覚障害者協会の李慶忠(Li Qingzhong)会長は「盲導犬の育成は時間がかかり、需要に追いついていないのが現状」と説明。「ハイテク機器が開発されても、『心の伴走者』の役割を持つ盲導犬の代わりにはなれません」と訴え、盲導犬事業への理解と支援を呼びかけている。(c)東方新報/AFPBB News