【5月18日 AFP】緑色のジャンプスーツとヘルメットを身に着け、マリアン・ドリック(Maryan Dolik)さん(13)はためらいながら、ガラス張りの小部屋に足を踏み入れる。屋内での疑似スカイダイビングの始まりだ。

 あっという間に、すさまじい風圧で浮き上がったドリックさんは、脳性まひで不自由な体を忘れる。

 普段は階段を下りるのにも苦労しているが、垂直の風洞の中で飛ぶことを覚え、この珍しい療法の成果がすでに表れている。

「前よりもうまく歩けるし、強くなって、持久力もつきました」と、金髪で細身のドリックさんは笑みを浮かべてAFPに語る。「いろんなことをできるようになりたいです。誰かに助けてもらわなくても、なんでも自分でやるようにしたいです」。将来は、屋内スカイダイビングのインストラクターになりたいと言う。

 ドリックさんは、脳性まひの子どもたちの身体能力向上を目的に設立され、ロシア政府の資金援助を受けた「一緒に飛ぼう」プロジェクトに選ばれて参加している。週に一度、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク(St. Petersburg)にあるセンターに通い、コーチの指導を受ける。

 訓練開始から3か月。母親のイリーナさんは、ドリックさんの体の「可動域が広がっている」と語った。

 空中浮遊装置を利用する療法は、すでに欧州諸国や米国で普及している。しかし、障害者支援で他国に後れを取っているロシアでは、やっと弾みがついたところだ。

 医師のバリダ・イサノバ(Valida Isanova)氏によると、疑似スカイダイビングは日常生活で使わない関節や筋肉を動かすのに役立つという。ただし、プロジェクトに「科学的根拠」をもたせるためには、さらに研究が必要だと語った。

 公式統計によると、ロシアには8万5000人前後の脳性まひ児がいる。しかし、講習1時間につき3万ルーブル(約4万4000円)近いスカイダイビング・シミュレーターを体験させる余裕のある家庭はごく少数だ。

 そこで、これまでに5歳から14歳までの子ども120人が選ばれて、ロシアのいくつかの都市で行われている「一緒に飛ぼう」の取り組みに参加している。

 プロジェクトを主宰するエカテリーナ・イノゼムツェワ(Yekaterina Inozemtseva)氏も、脳性まひの女児の母親だ。昨年12月にはプロジェクトへの国の支援を求め、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に直訴した。

 4月にはドリックさんを含む脳性まひの子ども8人が、首都モスクワで行われた屋内パラシューティング選手権に参加した。障害のある子どもの出場は前例がなかった。

「この子たちは、アスリートとして成長してスカイダイビングの世界に飛び込むチャンスをつかんでいる」と語るドリックさんのコーチ、ルスラン・サビツキー(Ruslan Savitsky)氏。「空はこの子たちに向かって開かれている」 (c)AFP/Marina KORENEVA with Victoria LOGUINOVA-YAKOVLEVA in Moscow