■「ここは私たちの土地」

 ユネスコは2016年、キュレネと他4か所のリビアにある遺跡を「危機にさらされている世界遺産リスト(World Heritage in Danger)」に登録することを決定した。

 戦乱によりリビアは、さまざまな民兵・武装勢力が支配する領地に分断された。こうした勢力の一つ、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は一時期、キュレネから70キロ東のダルナ(Derna)を牙城としていた。

 リビアの主要勢力間で停戦合意が結ばれ、今年3月には暫定統一政府が成立したが、多くの住民たちにとっては古代遺産の保護より当面の関心事がある。

「まだ遺物が埋まっているので、遺跡周辺の土地を使用するなと言われている。でも、ここは私たちの土地。活用する権利が私たちにはある」と、近隣に農地を所有するサード・マハムード(Saad Mahmoud)さんは主張する。

「解決策を見つけるのと、不動産価格の上昇に見合う補償を土地所有者に払うのは国の仕事だが、地価が上がっているせいで、他の場所をと言われても私たちには難しい」

 マハムードさん同様、シャハトの5万人の住民の多くにとって、住まいに関する切迫した問題は遺跡保存よりはるかに優先順位が高い。

 都市計画は1986年を最後に改定されておらず、形骸化している。リビア東部地域の博物館を管理する当局の職員、イスマイル・ダクヒル(Ismail Dakhil)氏によると、キュレネの30%が建設地になっているとみられる。

 問題はまだある。

「古代遺跡への落書きが絶えず、未認可の発掘も数多く行われている。そこから掘り出された遺物が海外に持ち出されている」とダクヒル氏は言う。

 遺跡の発掘を当局が管理し、違反者を罰するなど、古代遺跡を守る法律はあるにはあるが、ダクヒル氏によれば、罰金額はわずかで、禁錮刑も最高で1年と、罰則の効果がほとんどない。

「遺産の保護に関する政策を見直すべきだ」と、研究者で歴史家のアハマド・ファラジュ(Ahmad Faraj)氏は語る。「暫定政府には新しいビジョンを打ち出してもらいたい」

 映像は3月に取材したもの。(c)AFP/Mohammed Elshaiky and Abdullah Doma