■経済的主権の喪失

 復旦大学のキャンパス建設は、オルバン政権が掲げる「東方開放政策(Eastern Opening)」の一環だ。

 この政策をめぐっては、地政学的バランスを考慮したものだとの分析がある一方、EUと北大西洋条約機構(NATO)の内側に中国とロシアを招き入れる「トロイの木馬」と化しているとオルバン首相を批判する声もある。

 ハンガリーはEUで唯一、中国製とロシア製の新型コロナウイルスワクチンを利用している。また、国内唯一の原子力発電所では、ロシアの国営エネルギー企業ロスアトム(Rosatom)が巨額のロシアマネーを使って設備を拡張しつつある。

 大容量通信規格5Gの整備に、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ、Huawei)を関わらせるのは安全保障上のリスクになるとの米国の懸念も、オルバン政権は一蹴している。

 首都ブダペストと隣国セルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道の建設プロジェクトも、中国の巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の一環として、中国の融資20億ユーロ(約2600億円)で費用の大半を賄う。

 しかし、ブダペスト在住のアナリスト、クレコ・ペーテル(Kreko Peter)氏は、復旦大学のキャンパス建設を中国人労働者が担い、ハンガリーの納税者がその費用を支払う計画は、「ハンガリーには何らメリットがないように見える」と指摘。中国からの融資は「経済的主権の喪失」であり、「対中債務がかさみつつあり、危険だ」とAFPに語った。

 復旦大学が2019年に大学憲章から「思想の自由」への言及を削除したことも、ハンガリーの学問の自由をめぐる懸念を拡大させている。

 地元出身のリベラル派の米富豪ジョージ・ソロス(George Soros)氏がブダペストに創立した中央ヨーロッパ大学(CEU)は2018年、オルバン政権との法廷闘争の末、拠点をオーストリアのウィーンに移した。大学側は「追い出された」と主張している。(c)AFP/Peter MURPHY