【5月15日 AFP】オーストリアのカーリン・ホフバウアー(Karin Hofbauer)さん(62)が、キッチンでパソコンのカメラに向かってバターをかざす。オンラインで集まったお菓子作りの初心者たちに、タルト生地をこねる秘訣(ひけつ)を伝授しているのだ。

「作り方が簡単なので、友人や家族に何度も振る舞ってきました。いつもうまくいきます」とホフバウアーさん。この日はナッツとカスタードを使ったリンゴのタルトを作った。

 この日の生徒は、ドイツとオーストリアから参加した5人。ホフバウアーさんのような「おばあちゃん」が教えてくれる、簡単で分かりやすいレシピを目当てに参加している。

 2年前、ホフバウアーさんは病院の管理職を退職。健康で活動的なホフバウアーさんは、「何か意味のあることをしたい」という思いから、ウィーンのカフェ「フォルペンジオン(Vollpension)」で働く50人ほどのおばあちゃんたちに仲間入りした。このカフェは、退職者が生活費を補うとともに、多くの高齢者が感じる孤独感を解消するための社会事業だ。

 事業のきっかけは、約10年前にウィーンのカフェで出された、一切れのパサついたケーキだった。

 フォルペンジオンの共同設立者、モーリツ・ピフルペルセビッチ(Moriz Piffl-Percevic)氏は「おばあちゃんよりおいしいケーキを作る人はいない」とAFPに語った。パサパサのケーキを食べ、おばあちゃんのケーキを食べていたぜいたくな時間を懐かしく思ったのだという。

 ピフルペルセビッチ氏らのチームは、地元の新聞で「おばあちゃん」を募集。期間限定カフェなどの試みを経てようやく、フォルペンジオン1号店を開業した。フォルペンジオンとは、ドイツ語で「退職」と「食事付きの宿泊施設」を意味する。

■「おばあちゃんたちに活躍し続けてもらう」ために

 ピフルペルセビッチ氏らは、コロナ禍でも「おばあちゃんたちに活躍し続けてもらおう」と、ケーキの持ち帰り以外の方法を模索した。

 そして、お菓子作りのノウハウをオンラインで伝えるに至った。

 テレビ番組に登場するようなキッチンスタジオの制作から撮影までをボランティアが担当。内容は要望に応じて、クリスマスクッキーからビーガンケーキまで多岐にわたる。ホフバウアーさんのように、自宅のキッチンをスタジオにするおばあちゃんもいる。

 フォルペンジオンはこのほど、世界中のおばあちゃんやおじいちゃんに向けて、数か国語で活動への参加を呼びかけた。(c)AFP/Denise HRUBY