【5月4日 AFP】香港東部のヒスイ色の海には、海域のサンゴ礁の回復を目指して、3Dプリンターで作られた粘土製のタイルが海底に置かれている。タイルのすぐ近くには、産み付けた卵を守るイカの姿もあり、科学者らは喜びを隠せない様子だ。

 都市のイメージが強い香港だが、周囲の海では84種前後のサンゴが確認されている。これは、カリブ海(Caribbean Sea)で確認されている数字を上回る。

 しかし、急速な温暖化の影響によって危機的な状況に置かれているという点では、香港のサンゴもカリブ海のサンゴも変わらない。

 香港周辺の海域では、粘土を材料に3Dプリントしたタイルを焼き固め、これを用いてサンゴの保護および回復を試みる実験が行われている。実験を行っているのは、香港大学(HKU)のブリコ・ユー(Vriko Yu)氏ら海洋学者のチームだ。

 サンゴが定着できるようにデザインした素焼きのタイルを海底に設置したところ、これまでは期待の持てる結果が得られている。

 ユー氏は、「タイルを設置した当初、周辺には数えるほどしか魚がいなかった」が、今では、さまざまな野生生物がこの人工の「サンゴ礁」に集まってきていると説明する。

「とても、とても、ワクワクする」とユー氏は言う。

 死んでしまったり弱ったりしてしまったサンゴの再生には、生き残っているサンゴの幼生が定着するための場所が必要となるが、3Dプリンターで作ったタイルによって、そのような環境を提供することに、現時点においては成功しているという。

 この研究を主導した香港大学生物科学学院のデービッド・ベーカー(David Baker)准教授は「3Dプリントであれば、環境に応じて必要な調整を施すことができる。これこそが、3Dプリントが持つ真の可能性だと思う」とAFPに語った。

 タイルの上に定着したサンゴの生存率については、約90%とユー氏は説明する。「既存の移植方法よりも確実に高い」

 映像は、タイルが設置された海下湾海岸公園、2月撮影。香港大学で3Dプリントされるタイル、2020年11月撮影。(c)AFP/Sarah