【5月1日 Xinhua News】中国重慶市(Chongqing)大足区にある大足石刻の千手観音は、彫刻と金箔(きんぱく)、色絵が一体となった中国に現存する最大の摩崖(まがい)石刻彫像。仏龕(ぶつがん)は高さ7・2メートル、幅12・5メートルで、面積は88平方メートルに及ぶ。同区宝頂山大仏湾に位置し、南宋の淳熙年間(1174~89年)から淳祐年間(1241~52年)にかけて造営された。国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界文化遺産「大足石刻」の重要な代表作であり「世界の石刻芸術の至宝」として知られる。

 唐宋時代に中国の政治・経済の中心が徐々に北から南に移ると、北方の石窟寺院の彫像は衰退し、現在の四川省(Sichuan)と重慶市で石窟寺院の造営が盛んになった。大足石刻を開削したのは南宋の昌州(州治は現在の大足区)米糧里の僧・趙智鳳(Zhao Zhifeng)で、1174年頃に宝頂山を訪れ、岩壁に沿って仏教道場を開くことを着想。その後数十年かけて数千体の仏像を作った。千手千眼を持つ迫力に満ちた千手観音像もこの時誕生した。

 21世紀に入ると、長年風雨に浸食された千手観音像は劣化が加速。2007年には手の指が1本脱落し、その保護は一刻の猶予も許されない状況を迎えた。国家文物局は08年、「大足宝頂山千手観音緊急補強・保護プロジェクト」を始動させ、国家石質文化財保護の第1号プロジェクトに指定した。

 大足石刻研究院保護工程センターの陳卉麗(Chen Huili)主任は「調査をすると、石像の本体の風化や金箔のひび割れ、彩色の脱落など34種類の問題が見つかった」と当時を振り返る。このような大規模な石質文化財の修復は前例がないため、中国文化遺産研究院など10余りの機関の文化財保護や施工部門の専門家、技術者100人近くが修復作業に参加したという。

 修復作業ではX線による傷の探知、赤外線カメラによる検査、3次元ビデオ顕微鏡での観察など現代科学技術が活用された。ただ、千手観音本体の修復が重要段階に入ると、想定外の難問が次々と現れた。

 金箔の補強には安定し耐久性のある接着剤が必要になり、解決までに3年近くを要した。陳氏は「材料の比較と試験を繰り返し、最終的に西南地区の伝統的な生漆(きうるし)を改良し、難問を克服した」と語る。

 千手観音は手の形が非常に複雑かつ多様で、その修復作業は今回のプロジェクトの最重要項目となった。修復チームは指の1本1本、細部の1カ所ごとを細かく調査し、1032枚の調査票を作成したほか、2万枚余りの写真を撮影した。収集した約3万5千件のデータに基づき分類ごとに施策を分け、一つずつ修復した。その過程で千手観音の手の数が830本だと初めて確認された。

 修復作業には各種修復資材約1トンのほか、金箔44万枚が使われた。修復開始から8年近くがたった2015年6月13日、千手観音は約800年ぶりに本来の輝きを取り戻した。(c)Xinhua News/AFPBB News