【4月29日 AFP】インドの首都ニューデリー近郊ガジアバード(Ghaziabad)にある混雑した道路のわきで、ヒマンシュ・ベルマ(Himanshu Verma)さん(32)は、新型コロナウイルスに感染した母親(58)の顔にマスクが当てられ、酸素吸入が始まると、安堵(あんど)のため息をついた。

 新型ウイルスの流行が過去最悪規模に拡大しているインドでは、病院での酸素不足が深刻化。ガジアバードのシーク教寺院前に設置されたテントには、酸素を切実に必要とする患者たちが乗用車や三輪自動車、さらには救急車で次々と運ばれている。

 母親が酸素濃縮器につながれる中、ベルマさんは「治療が必要だったのに、デリーの病院はどこも空きのベッドがなかった」と嘆いた。「必要なら、夜通しここにとどまる。そうするしかない」

 ベルマさんの周りには、新型ウイルスに感染した人々がベンチや三輪自動車の後部に横たわり、苦しそうに息をしている。気温が38度に達する猛暑の中、家族は不安げな表情を浮かべながら、段ボールをうちわにして患者をあおぐ。

 インドではこの1週間の新規感染者数が230万人を記録。流行の中心地となっているデリー首都圏では、連日2万〜2万5000人の新規感染が確認されている。

 病院の外では、呼吸困難に陥った患者たちが入院を待ちながら亡くなっている。一部の病院では、入院できた患者も酸素不足のため亡くなっているとの報道もある。患者の家族の中には、酸素ボンベを自力で調達するよう病院から求められたとソーシャルメディアに投稿する人もいる。

 ツイッター(Twitter)とフェイスブック(Facebook)には、酸素ボンベや詰め替え用酸素が買える場所を必死で探す投稿があふれている。そうしたメッセージの多くには、危険な水準に下がった血中酸素濃度の数値が添えられる。

 プリヤンカ・マンダル(Priyanka Mandal)さん(30)は、糖尿病の母親(55)が感染し、容体が悪化したものの、入院させることができなかった。酸素ボンベ1本と酸素6キロを売ってくれる人をやっと見つけたが、値段は通常の市場価格をはるかに上回る3万ルピー(約4万4000円)だった。マンダルさんはAFPに「母はずっと熱が続いていて、今は息ができなくなった」と説明。酸素がなくなりつつあると話した。

 インドには国際社会からの医療物資が到着し始めているものの、この寺院でも酸素の入手は難しくなっており、デリー首都圏の深刻な状況を物語っている。患者の生死を左右する酸素ボンベの到着を待ちながら、マンダルさんは「どれだけ時間がかかっても、私はここで待たなければならない」と語った。「私には母しかいない。父は交通事故で亡くした。だから私は、母を助けなければ」 (c)AFP/Glenda KWEK