■「魂のつながり」

 スンダレサン氏の投資ファンド「メタパース(Metapurse)」は昨年12月、ビープルの別な20作品一式を購入。その所有権の一部をトークンとして販売した。当初、1トークンにつき0.36ドル(約39円)だったが、今では5ドル(約540円)前後だ。

 だが、「The First 5,000 Days」を購入する過程は熾烈(しれつ)だったという。競売大手クリスティーズ(Christie’s)のオークションは2週間続いた。わずか100ドル(約1万900円)から始まった競りを、落札寸前には2200万人がオンラインで見守った。

「これほど競い合うとは思っていなかった」とスンダレサン氏。「私でも、あれだけの金額を費やすのは非常に厳しい」

 購入した同作品は、バーチャル画廊で展示する計画だ。「アバターとして画廊に行き、各階を回り、このアートを鑑賞することができる」

 スンダレサン氏は「The First 5,000 Days」に個人的な縁を感じたという。自分とビープルの歩んだ道に共通するものを見たからだ。2人ともそれぞれの分野でほぼアマチュアとして始め、長年の努力が実を結んだ。

 ビープルが同コラージュの制作を開始したのは2007年。ウェブデザイナーの仕事に飽き飽きしていた頃だ。

「彼は日々成長し、13年かけてここまで来た」とスンダレサン氏。「そこに彼と魂のつながりを感じた」

■「いい時にいい場所にいる幸運」

 工学部の学生だった頃、スンダレサン氏はラップトップ型パソコンさえ買えなかったと言う。

 さまざまなウェブサービスを立ち上げようとしたが、失敗。運が回ってきたのは、2013年に暗号通貨の会社を設立してからだ。

 現在、スンダレサン氏はITコンサルティング会社の最高経営責任者(CEO)であり、NFT専門のファンド「メタパース」に出資している。

 史上最高額の購入は、スンダレサン氏が所有している他のNFTの価値を引き上げるための宣伝行為だという批判を同氏は否定。あくまでもアーティストたちを支援するためだと主張する。

 しかし、NFTブームがアーティストを支えるという見方に懐疑的な向きもある。

 欧州経営大学院(インシアード、INSEAD)のアントニオ・ファタス(Antonio Fatas)経済学教授は「大金を稼ぐアーティストもたまに見かけるが、運がいいからだ。いい時にいい場所にいたからだ」と語る。

「世に知られようと頑張っている普通のアーティストにとって、これがどれだけの助けになるか分からない」 (c)AFP/Catherine Lai