【4月15日 AFP】米ハリウッド(Hollywood)で、一年で最も華やかな夜となるアカデミー賞(Academy Awards)授賞式は、世界中で数百万人が視聴する。しかし、中国では、主要部門の候補となっている中国出身の監督の発言が問題視されている他、香港の民主化運動を描いたドキュメンタリー作品がノミネートされていることもあり、今年は全く盛り上がらない可能性がある。

 北京生まれのクロエ・ジャオ(Chloe Zhao)氏が監督した、米国を舞台にしたロードムービー『ノマドランド(Nomadland)』は、監督賞や作品賞など6部門にノミネートされ、受賞の呼び声が高い。だが、中国では、ジャオ氏の祖国への忠誠心を疑問視する声が上がり、批判を受けている。

 米娯楽誌バラエティ(Variety)によると、世界で最も急成長している映画市場を持つ中国は長年、「ハリウッドの称賛を切望」している。中国中央テレビ(CCTV)は2003年以降、授賞式を生放送するかディレイ(遅延)放送してきた。過去には、オンラインでストリーミング配信もされた。

 だが、米ブルームバーグ(Bloomberg)の先月の報道によると、中国共産党中央宣伝部は国営メディアに対し、4月25日の第93回アカデミー賞授賞式の生放送を見合わせ、内容を大きく取り上げないよう指示した。

 さらに、中国政府が締め付けを強めている香港では、約50年ぶりに授賞式を放送しないことが決まった。テレビ局TVBは「純粋に商業的な判断」だと説明している。

 中国の国営メディアはここ数週間、アカデミー賞に攻撃の矛先を向けている。中でも批判しているのが、香港の民主化デモをテーマにした作品『Do Not Split(原題)』だ。

 同作がドキュメンタリー短編賞にノミネートされた数日後、共産党機関紙・人民日報(People's Daily)系の環球時報(Global Times)は、「芸術性に欠け、偏った政治姿勢に満ちている」と酷評した。

「このような映画が受賞すれば、中国人の観客の感情を損ねることになる」として、「中国人の映画ファンの間でアカデミー賞自体の評価が下がることにもなる」と主張した。

『Do Not Split』を監督したノルウェー人のアンデシュ・ハンメル(Anders Hammer)氏はAFPに対し、こうした反応は、むしろ喜ばしいと話す。

「ドキュメンタリー映画を作る一番の目的は、オスカーを受賞することではなく、香港の危機的な状況に注目を集めることだ」とハンメル監督は述べ、「中国政府に私たちは大いに助けられている」と指摘した。「非常に注目を集めている」