2021.06.20

CARS

これがスポーツ・セダン選びの裏定番 アウディS5スポーツバック、BMWアルピナB3、アルファ・ロメオ・ジュリア

4ドア・セダンの時代は終わったと言うけれど、こんなクルマだったら、きっと周囲の目も変わるのでは。家族で乗れて、荷物も積めて、滅法速い3台をモータージャーナリストの島下泰久氏とエンジン編集部員が試乗した。


走り好きお父さんのためのスポーツ・セダン


村上 今日は去年フェイスリフトしたアウディS5スポーツバック、カー・オブ・ザ・イヤーでパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたBMWアルピナB3、そして内装などをマイナーチェンジしたアルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオの試乗車を借り出して、いつもの箱根までやってきたわけです。この3台といえば、ある意味、走り好きのお父さんのためのスポーツ・セダンの定番とも言える。


塩澤 いや、定番というより、ハズしのクルマでもあるんじゃないの。


村上 なるほど、ということは裏定番と言った方がいいのかな。



塩澤 その通り。人とは違ったクルマが欲しい、その一方であらゆる面で妥協したくない。そういう人が選ぶ、わざとオフセットした立ち位置にあるようなクルマだな。


島下 ある程度の経験がある人じゃなければ選ばないですよね。BMWに乗らずして、いきなりアルピナに行く人はいないでしょうから。あれも乗ったしこれも乗ったし、という人が、いわゆるド定番じゃなく、ちょっとひねったクルマが欲しいという時に出てくる選択肢だと思います。



塩澤 その選び方自体がオシャレなんだよね。つるしの服をそのまま着るんじゃなくて、ちょっとボタンをはずしたりして、わざと崩して着るような感覚。そういうのって、ある程度経験がなければできないし、わかってないと楽しめない。


島下 わかってる度アピールにもなるわけですよね。オレは経験積んでますよ、という。



村上 しかも、この3台とも乗ってみれば明らかなように、運転が上手くなればなるほど楽しさも増していくような種類のクルマだよね。


塩澤 運転の楽しさの中にグラデーションのように様々な色合いがあって、それがいろいろな角度から楽しめる。だから奥が深い。


村上 しかもその楽しさが3車3様で、それぞれの個性が際立っていることも特徴だと思う。


塩澤 驚くほど全然違っていた。


昨年のマイナーチェンジでグリルがより大きくなり、顔つきの精悍な印象が強まったA5シリーズ。S5は、アウディ・スポーツ社でつくるRSモデルほどアグレッシブではないノーマル・モデルの最スポーティ版という位置づけで、このスポーツバックのほかに2ドア・クーペも用意される。


イイモノ感がすごいアウディ


村上 それでは、まずはアウディS5スポーツバックの話から。アウディというのは頭が良くて運動神経抜群の秀才系のクルマだと思ったね。


島下 とりわけ、Sモデルはよくまとまっていますよね。これがRSになると刺激とかにフォーカスが向かうけれど、Sだと家族思いという感じもあって、ちょうどいい頃合いです。スポーツ性能うんぬんの前に、単純にイイモノ感がすごい。飛ばせばさらに良さが引き立つんだけれど、その前に普段の満足度がすでに3段階くらい高いと思いましたね。


塩澤 クルマとしてのまとまり感が見事で、こういうふうにクルマってまとめられるんだと驚ろかされたよ。


フロントに縦置きされるエンジンは3.0リッター V6ツインターボで、354ps/500Nmのパワー&トルクを発生。8段ATを介して4輪を駆動する。


村上 サイズ感も日本で乗るのにピッタリだし、重さもちょうどいい感じ。エンジンは4気筒でも問題ないんだけれど、6気筒になると気持ち良さが一段と増してくる。これは実用スポーツ・セダンとして満点、非の打ち所がないクルマだと思った。


島下 マルチ・シリンダーって昔に比べると有難みが増しているじゃないですか。まずはそれを感じますよね。回さなくても、フツウに走っているだけで有難いと手を合わせたくなるような気持ち良さがある。Sモデルにはボディにもそれなりに補強が入っていて、イイモノ感はそういうところからも来ているのだと思います。19インチのタイヤを履いてあれだけ乗り心地がいいんですから。



塩澤 ぶっちゃけ、長期リポートでA7スポーツバックの4気筒ディーゼル・モデルに毎日いいなと思いながら乗っているんだけど、S5に乗ったら、こっちに乗り換えたいなと思っちゃった。車格的にはA7が上だけれど、イイモノ感ではS5が上かも知れない。


島下 濃いというか、鉄板が厚そうというか、関節強そうというか、そんな感じがありますよね。


塩澤 そうそう。でも、その関節強そうな部分が全然イヤな感じじゃないんだよね。


村上 それが変な演出から来るものではなくて、あくまで素性の良さからくるものだから素晴らしいんだと思う。もちろんRSモデルもいいんだけど、あっちはかなり演出が入っている感じがするからね。


島下 本格的にサーキットを走りたいんだったらRSでしょうが、日常使い中心で、たまに山道を走りたいような人には、ベターというよりベストな選択と言っていいでしょう。




スポーツ・シートはデザインだけでなくホールド感や座り心地も抜群。荷室容量は465リッター。


村上 もうひとつ付け加えたいのは、僕は前にA4アバントに乗っていたんだけれど、最近ではアバントよりスポーツバックの方がイマっぽいと思うの。ひと昔前だったら、セダンに対するちょっとはずしの裏定番はアバントだった。でも、今はスポーツバック。ほどよい家族思いとオシャレ感、そして走り好きという三拍子のバランスが抜群にいい。


島下 単純にカタチがキレイ。アバントと違い、荷車じゃないから。でも、いざという時にはメチャ使える。


塩澤 オシャレ度で言えば今日の大賞はアウディでしょう。色に関しては異論があるかも知れないけど。


村上 僕は個人的に緑好きだからたまらなかったけどね。問題は高いこと。926万円。残念、買えない。


デビューは一昨年の東京モーターショー。昨年はドイツと日本でパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたBMWアルピナの中核モデル。


大人に乗って欲しいアルピナ


村上 でも、次のはもっと高い。BMWアルピナB3。1229万円。300万も高いだけあって、パワーが462馬力もある。そして、それ以上に驚ろかされるのがトルクで、なんと700Nm! これはBMWのM3のエンジンがベースだけれど、パワーを抑えてトルクを太くするという独特の哲学に基づいてチューニングしている。だから、トルクで走っている感じがずっとするよね。


塩澤 それがアルピナ独特の走りの質感に繋がっているんだろうね。


フロントに縦置きされる3リッター直6ツインターボは、BMW M3のそれにアルピナ独自のチューニングを施したもので、タービン変更やエンジン・マネージメントによって、ピークパワーを462psにダウンさせながらピークトルクを700Nmに引き上げている。8段ATを介して4輪を駆動。


島下 100km/h巡航時の回転数が約1500回転として、そこから加速していくと、そのちょっと上あたりではもう塊のトルクが出ているから、たいして踏まなくてもスッとスピードが上がっていく。運転が上手くなるとより楽しくなるのはそういうところで、最初はわからないからグッと踏んじゃう。でも、上手くなってくると、そんなに踏まなくても加速できるとわかってジワッと踏むようになる。そこで繊細なアクセル・ワークができるようになると、クルマともっと仲良くなって一体感が持てる。このクルマの神髄はトップ・エンドではなく、そこに到る過程の気持ち良さにあるんです。



村上 アルピナはBMWをベースにしているけれど、ステアリング・ホイールの革を自分たち独自のものに巻き換えたり、ステッチを指先に引っかからないやり方に変更したりして、自分たちが考える質感をものすごく大切にしている。一言で言うと、これは大人のクルマですよ。そういう繊細な感触を深く味わいたいと思う人のためのクルマで、ドーンとアクセレレーターを踏み込みたいという人はやめておいた方がいい。


塩澤 ひと昔前はベースとなるBMWのパワーはそんなになかった。だから、アルピナはパワーも突出して凄いという感じがあった。でも、今回乗ってみて、まわりが凄くなっているから、ことさらパワフルで凄いとは思わなかった。ともすれば、AMGなんかと比べたら、パワー的には大したことないじゃんと思ってしまう。だけど、あえて声を大にして言いたいのは、これは様々なグラデーションを楽しむためのクルマだということ。高速道路を巡航する時、山道を攻める時、街中を流す時、いろいろなシチュエーションでアルピナ・テイストを楽しめるのが一番の味噌の部分で、そういうことがわかる大人にこそ乗ってもらいたい。




内装のレザーを独自のものに張り替えているのも見どころだ。荷室容量は480リッター。


村上 ただ、アルピナが難しくなっているのは、ベースのBMWが変わると、アルピナも変わらざるを得ないという点。わかり易い例で言えば、BMWのステアリング・ホイールがあんなに小径で極太の握りになってしまうと、アルピナは繊細なクルマだから細いリムで径も大きい方がいいのに、ステアリングに付加された機能を生かすためには、それを使わざるを得ない。そういう点から始まって、いろいろな制約があるから、昔ほど、これぞアルピナという感触は色濃く出ていないようにも思う。


島下 時代が変わってきている感じはありますね。でも、Mがますますドカンと行くクルマになっているのに対して、アルピナは依然として繊細志向。Mとアルピナの位置関係については変わっていないと思います。


昨年のマイナーチェンジでインテリアがブラッシュアップされるとともに、レーン・キープ・アシスト付きのクルーズ・コントロールが加わるなど、日常使いの利便性が向上したジュリア・シリーズ。クアドリフォリオは中でも走りを重視した飛び抜けたスポーツ・モデルだ。


アルファでココロひとつに


村上 で、もう1台がアルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ。1174万円。


塩澤 これは踏むと応えるよ。


島下 率直に言うと、久々に試乗車に乗って箱根に向かう間、あれっ、こんなクルマだったっけなと思っちゃった。乗り心地もガタガタするし、エンジンも下の方では冴えないし、ステアリング・フィールもしっくりこないなとずっと感じていたんです。ところが、山で狭いワインディングを走ってみたら、まるで見違えるように生き生きとしたクルマに大変身して、あれっ、これは面白いぞ、と目が覚めるようだった。結局、その瞬間のためにこのクルマを持っているようなものですよね。




村上 やっぱり、これは走ってナンボ、飛ばしてナンボみたいなところがあるよね。アウディやアルピナはゆっくり走っていても気持ちいいけれど、クアドリフォリオだけダメ。


塩澤 ゆっくり走ったらどこにも気持ちいいところはないでしょう。バンバン踏まないと。


村上 これはアルファ・ロメオの名誉のために言っておくけど、スプリントなんかはゆっくり走っても気持ちいいんですよ。フツウのジュリアは街でも高速道路でも山道でも、あるいはサーキットを走っても気持ちいいクルマなんだけど、クアドリフォリオについては飛ばしてナンボ。


フロントに縦置きされる2.9リッターV6ツインターボは、510ps/600Nmを発生、8段ATを介して後輪を駆動する。


塩澤 要するに、クアドリフォリオのグラデーションはアクセレレーターを思い切り踏んでからの世界に拡がっているということだよ。コーナーから脱出するのにどれだけ踏めるかという世界に楽しみがある。Gのかかり方とかタイヤとの対話とか、そのあたりを楽しむようなグラデーションになっているんじゃないかな。


村上 そういう意味でいうと、ひと昔前のスポーツ・セダンの味わいそのものだよね。なにしろ、これだけパワーを出しているのにFRだからね。ほかはみんな4駆なのに。




インテリアは今回の3台の中で唯一リアルな針の付いたメーターパネルを採用するなど男っぽい印象だ。荷室容量は480リッター。


島下 すぐにイタリア車だから、とか言いたくなるんですが、いやいや彼らだっていくらでも丸めたクルマをつくれると思うんです。だけど、おまえクアドリフォリオを買っているんだよな、と僕らに言っているわけですよ。だったら、もっと踏んだらどうだ、とか、もっとコーナーに意識を持って入って行ってみろよ、とかクルマの方がけしかけてくる感じがある。そこが面白い。


村上 よくわかった。このクルマについては、お父さんがスプリントじゃなくてクアドリフォリオを選んだ時点で、家族もどうかお父さんに付き合ってあげて下さい。ちょっと乗り心地については我慢してでも、お父さんの気持ちを尊重する。ウチのはアルファ・ロメオだよ、しかも四葉のクローバーついてるんだから、というのを家族全員がココロをひとつにして誇りにするのが大切です。というわけで、この3台のどれを選ぶかと言われたら難しいね。


島下 この3台は一人がひとつのガレージに並べていてもおかしくない。


塩澤 そのくらいキャラが違う。


島下 どれも余韻が残るクルマでした。どれを選んでも、スポーツカーでもSUVでもないスポーツ・セダンに合ったオシャレなスタイルで、ぜひ乗って欲しいと思います。


話す人=島下泰久+村上 政(ENGINE編集部、まとめも)+塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬


■アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4635×1865×1435mm
ホイールベース 2820mm
車両重量 1710kg
エンジン形式 直噴V型6気筒DOHCツインターボ
排気量 2891cc
ボア×ストローク 86.5×82.0mm
最高出力 510ps/6500rpm
最大トルク 600Nm/2550rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 通気冷却式ディスク
タイヤ (前)245/35ZR19、(後)285/30ZR19
車両本体価格(税込み) 1174万円


■BMWアルピナB3
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 4720×1825×1445mm
ホイールベース 2850mm
車両重量 1840kg
エンジン形式 直噴直列6気筒DOHCツインターボ
排気量 2992cc
ボア×ストローク 84.0×90.0mm
最高出力 462ps/5500-7000rpm
最大トルク 700Nm/2500-4500rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 通気冷却式ディスク
タイヤ (前)255/30ZR20、(後)265/30ZR20
車両本体価格(税込み) 1229万円


■アウディS5スポーツバック
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 4765×1845×1390mm
ホイールベース 2825mm
車両重量 1740kg
エンジン形式 直噴V型6気筒DOHCツインターボ
排気量 2994cc
ボア×ストローク 84.5×89.0mm
最高出力 354ps/5400-6400rpm
最大トルク 500Nm/1370-4500rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後)255/35R19
車両本体価格(税込み) 926万円


(ENGINE2021年5月号)

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