■アジアの支配?

 膨大なエネルギー需要と輸入化石燃料への重度の依存のため、中国や日本、韓国といったアジアの工業大国は「グリーン水素」に大きな期待をかけている。

 フランスのシンクタンク「戦略研究財団(Foundation for Strategic Research)」のニコラス・マズッキ(Nicolas Mazzucchi)氏は、「国内ニーズを考えれば、中国は当然、水素を含めあらゆることを試みている」と指摘する。

 中国が取り組んでいる水素生産モデルは、増えつつある原子炉での発電を当て込んだものだ。だが、現在は石炭を燃料とした電力を使用し、大量の二酸化炭素(CO2)を大気中に放出している。

 エネルギー分野のデータ分析・調査会社ライスタッド・エナジー(Rystad Energy)のジェロ・ファルッジョ(Gero Farruggio)氏によると、中国の経済の脱炭素化に対する意欲と低コスト化能力が意味するのは、電気で水を水素と酸素に分解する電解槽の製造を、中国が支配するようになる可能性があるということだ。

 だが、欧州もまだ諦めたわけではない。

 経営コンサルティング企業シア・パートナーズ(Sia Partners)のシャルロット・ドロルジュリル(Charlotte de Lorgeril)氏によると、ドイツは輸送、フランスは生産において水素の使用で先行している。一方、オランダはそのガス田のおかげで、既に強固なガスインフラを有している。

 欧州連合(EU)はエネルギー供給量に占める水素の割合を現在の2%から2050年までに12~14%に押し上げることを目指し、加盟国に協力を呼び掛けている。

 エネルギー産業側は新興企業の買収や共同事業の展開などにより、足掛かりを得ようとしている。

 仏石油大手トタル(Total)とエネルギー大手エンジ―(ENGIE)はフランス最大のグリーン水素生産拠点の開発事業で提携した。

■水素開発がもたらす道

 業界が熱を帯びる中、すでに具体化しつつある新たな提携や相互依存で、水素は世界のエネルギー地図を一変させる可能性がある。

 仏名門ビジネススクールHEC経営大学院(HEC Paris)で教壇に立つミカ・メレド(Mikaa Mered)氏は、今後10年間の問いは、水素の開発の結果、分散化がもたらされるのか、それとも石油輸出国と消費国のような新たな依存関係がつくり出されるのかだと指摘している。(c)AFP/Marie Heuclin and Catherine Hours