【3月31日 AFP】革製の衣装、ラメやド派手なメーク、ピンヒール、そして気取った足取り──。中国・北京で先週末、「ヴォーギング(Voguing)」と呼ばれるダンスのイベントが行われた。イベントは、同国のLGBTコミュニティーに、自らのアイデンティティーをたたえるための「プレーグラウンド(舞台)」を提供した。

 北京で大規模なヴォーギングのイベントが開催されるのは今回が初めて。遠方からの参加者が多く、会場は中国のLGBTの若者数百人で埋め尽くされた。

「Bazi」のニックネームを持つ主催者のリ・イーファン(Li Yifan)さん(27)は、「ここは社会の周縁に追いやられた人々のプレーグラウンドです」と語る。Baziさんは、同国でひそかに人気の高まりを見せるボールルームカルチャーの中心人物で、ヴォーギングのレッスンを北京で定期的に開催している。

 この非常に様式化されたダンスは1980年代に広く知られるようになった。だが、そのルーツは20世紀前半の米ニューヨークにある。メインストリームではなかった当時の社交ダンスカルチャーと容姿を競うコンテスト、モデルのポーズ、ダンスコンテストなどが融合して生まれた。

 米歌手マドンナ(Madonna)の1990年のヒット曲「Vogue」でこの文化にスポットライトが当てられ、ヴォーギングは欧米で大きな人気を獲得するに至った。

 性的マイノリティーでノンバイナリー(自らを男性と女性のどちらでもないと認識する人)と自認する出演者のホアホアさん(23)は、「ヴォーギングは過去2年間で本当に盛んになりました」と語る。

 ドレッドヘアで羽根飾りの黒いマント姿のホアホアさんは、2016年にヴォーギングを始め、すぐにその優雅な動きのとりこになったと言う。ヴォーギングの動きは、古いハリウッド映画や古代エジプトのヒエログリフなどから影響を受けているとされる。

 だがヴォーギングの世界が成熟し商業化が進むことで、そのルーツにある「独自性」が失われてしまうことを危惧する声もある。

 ホアホアさんは「ヴォーギングにはとても悲しい歴史があります。このダンスは人種差別、偏見、絶望を体験した世代の苦しみから生まれたのです」と語り、ヴォーギングに携わった多くの先人たちがエイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)で命を落としたと続けた。

「一度ヴォーギングを知れば、そのカルチャー(そのもの)に触れないわけにはいきません」とホアホアさん。「(ヴォーギングを)さらに多くの人に知ってもらうなら、その背景にある歴史も知ってもらわなければなりません」 (c)AFP/Laurie CHEN