【4月1日 東方新報】不眠に悩む人と深夜に会話をして睡眠に導く「哄睡師(寝かせ師)」という新たな「職業」が中国で広まっている。若者を中心にニーズは増えているが、同じようなビジネスが「低俗なポルノ」とみなされ禁止された前例があり、なりゆきが注目される。

「お客さんが話したいことや悩みごとにずっと耳を傾けることもあれば、お客さんの要望で私の方から話すこともあります。他に本を朗読したり、癒やしの歌を歌ったり。お客さんが眠った後もしばらくは話を続けて、頃合いを見てそーっと通話を切ります」

 20代の女性、蔣さんは「寝かせ師」の仕事をそう説明する。彼女は大学を卒業して2年。昼はレストランで勤務し、副業として深夜に不眠に悩む人の相手をしている。中国でインターネットを検索すると、複数の「寝かせ師」が登録しているサイトがいくつも現れる。ユーザーは「寝かせ師」のプロフィルを見て選択し、スマートフォンのアプリを通じて会話をする。価格はさまざまだが、安いところで30分間30~40元(約500~677円)。「寝かせ師」の中にもランクがあり、人気が高い人は30分で120元(約2003円)ほどになる。蔣さんは下から2番目のランクで30分60元(約1001円)だが、「副業としてはまずまずの収入になる」と話す。

 中国メディアによると、「寝かせ師」は大学生や時差の異なる海外留学生がバイトで、会社員が副業でしていることが多い。カウンセラーやセラピストといった資格を持たず、サイトにアップする写真や名前も本人と異なる人が大半だ。それでもトップクラスになると月に2万元(約33万円)以上を稼ぐという。 

 中国睡眠研究会によると、中国では3億人が睡眠障害に悩んでいる。世界保健機関(WHO)の調査では睡眠問題を抱えている人は世界平均で27%だが、中国は38%に達する。子どもの頃からの受験勉強の悪影響やスマホ中毒、仕事漬けなどさまざまな要因が考えられるが、収入が高いほど睡眠障害の割合が高くなる。そこで「寝かせ師」の需要が高まっており、中国の大手オンラインモール「淘宝(タオバオ、Taobao)」が発表した「2020年の変わり種職業ベスト10」にもランクインした。

 中国では2018年、音によって自律神経を刺激して快感を得るという「ASMR(自律感覚絶頂反応)」を当局が「低俗なポルノコンテンツだ」とみなし、国内のストリーミングプラットフォームから軒並み削除されたことがあった。米国発祥のASMRは、野菜を切る音、耳かきの音、散髪の音などが「眠りにつく効果がある」として中国でも広まったが、商売目的で「耳をなめる音」「あえぎ声」などを流すコンテンツが現れ、まとめて禁止対象に。これには「健全なものまで削除するなんて」「私はこれからどうやって眠りにつけばいいのか」という市民の不満も出ていた。

「寝かせ師」ビジネスはその「教訓」を生かし、サイトでは「健康的な会話をお楽しみください」と強調している。冒頭の蔣さんも「性的な会話はしないよう、サイト管理者からきつく指導されている」と話すが、「一対一の会話なので当事者同士の合意があれば、誰も止められない」と打ち明ける。

「寝かせ師」はあくまでビジネスなので、サイト管理者は「寝かせ師」たちに「常連客を増やせばランクが上がる」と指導している。これは結局、「お金を払って寝かせ師と話さないと寝られない」人々を増やすことにつながる。社会全体として不健康な状態ともいえるため、今後も議論の対象となりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News