【4月3日 AFP】新型コロナウイルスの感染拡大で、東京五輪・パラリンピックで海外在住の一般客の受け入れを断念することが決まって以来、日本の観光業では損失試算が行われている。

 2019年のラグビーW杯日本大会(Rugby World Cup 2019)の盛り上がりの後、五輪に大きな期待をかけていただけに、観光業界にとって今回の措置は大きな痛手だ。

 都内で「行燈旅館(Andon Ryokan)」を経営する石井敏子(Toshiko Ishii)さんは、約2000万円かけて宿を改修し、五輪観戦の旅行客の訪日に備えた。

 しかし今では、少なくとも9月まではインバウンド観光客が訪日することはできないだろうと想定している。

「ホテルが五輪に足りないっていう話で、ホテルをいっぱい造ってきたのに(中略)急にコロナで、全くそこ(需要)が蒸発しちゃったものですから。去年からホテルの供給過剰が起きていて(中略)すごい打撃です」

 2019年のラグビーW杯の開催時には、宿は多くの客でにぎわった。

「『来年は五輪で、上り調子で行くんだ』と思っていました」と石井さんは振り返る。

 旅行客の増加を見込み、石井さんは旅館のレストランを2倍に拡張し、数々の骨董(こっとう)品に飾られた内装や調理場を改装した。

 現在は、経営を維持するため公的融資に頼っていて、将来の資金繰りや観光業の回復のタイミングなどに不安を感じることもあるという。

「(借金を)返済する時まで頑張っていられても、その後どうするかという不安はあります」と石井さんは語った。

 希望は持っている。新たなレシピを学んだり、SNSで海外の常連客と交流したりすることに余念がない。

「先を見てビジネスをしていかないと」

 ラグビーW杯の追い風で、2019年の訪日客は過去最高の3190万人に及び、2020年には目標の4000万人に達するとみられていた。しかし昨年3月、コロナウイルス対策に基づく厳しい入国制限が実施されると、外国人旅行者はほとんど締め出され、東京五輪の開催は1年延期された。

 組織委員会は、海外向けに約63万枚の大会チケットを販売し、日本政府は、大会時には60万人の来日を見込んでいた。

 エコノミストによると、海外客の受け入れを断念したことによる日本経済全体への影響は限定的で、生活が正常化すれば観光業も立ち直るという。むしろ新型コロナウイルスによる経済全体への打撃が甚大だ。

 それでも、個別の旅行事業者への影響は小さくない。

 浅草で観光人力車のサービスを提供している「東京力車(Tokyo Rickshaw)」。マネジャーの及川唯(Yui Oikawa)さんは世界中から集まる五輪観戦者を、自らの人力車に乗せて観光案内することを楽しみにしていた。

 現在は、厳しい衛生対策を実施しながら、国内客を取り込み続けている。

「寂しいというか、残念だなという気持ちももちろんありました」と及川さん。「(観光客が)いつか戻ってくる時のために、(自分たちを)鍛える時期かなと思っています」。スタッフは観光客への声掛けの技や名所案内の技術を磨いていると言う。