【4月4日 AFP】パナマの教師グラシエラ・ブーチェ(Graciela Bouche)さん(37)は週に一度、自らが暮らす熱帯雨林の小さな町から、約2キロ離れた先住民の村にカヌーで向かう。この村のインターネットの接続状況は不安定で、オンラインでの授業が困難なのだ。

 異色なカヌーでの通勤にかかる時間は約15分。接岸するとノートパソコンやホワイトボード、マーカーなどの教師の必需品を持ち、ブーチェさんはカヌーをおりた。

 児童らのために食べ物も用意している。先住民の村エラプル(Ella Puru)は、観光業に依存しているため、新型コロナウイルスの流行で収入源が突然絶たれてしまった。

 エラプルはパナマ運河(Panama Canal)の一部を構成するチャグレス川(Chagres River)沿いのコミュニティーで、先住民エンベラの人々が暮らしている。

 授業が行われるのは、わらぶき屋根で設けられた日陰の「教室」だ。30人ほどの児童らは、カラフルな布が敷かれたプラスチック製のテーブルの周りに座り、マスク姿でブーチェさんの話に耳を傾ける。周囲には、伝統的な衣装と見事なハイビスカスの髪飾り、それとマスクを着用した保護者らの姿がある。

 ブーチェさんはAFPに対し、「インターネットへの接続の問題と、他地域の児童と同じ教育にアクセスできていないという状況を知り、このコミュニティーに関わることを決めました」と語った。「部分的にでも対面での授業を行おうと思ったのです」

 コロナの流行前、エラプルなど地域の先住民コミュニティーの子どもたちは、隣接するパナマ県の約15キロ離れた学校に通っていた。通学するには、まず保護者が子どもたちを集合場所にボートで連れて行く必要があり、さらにそこからバスで40分移動しなければならないという。その学校も現在はコロナ禍で閉まっている。

 子どもたち同士では、エンベラの言葉を使っているが、ブーチェさんとはスペイン語で会話をしている。

 英語の授業は携帯電話で記録され、ブーチェさんはその様子をSNS経由で同僚に見せて評価を依頼する。

「パンデミック(世界的な大流行)の危機が過ぎたら、通学手段の改善に期待したい」とブーチェさん。「通学を安定させ、子どもたちの学習時間をしっかりと確保できるようにすべきです」と述べた。

 お昼ごろになると、ブーチェさんはまたカヌーに乗り、自宅のある町へと戻っていった。午後は、町の子どもたちへのオンライン授業が控えているのだ。(c)AFP/Moises AVILA