【4月2日 AFP】南アフリカ、ケープタウン中央駅の専用ラウンジ。グレーのベストを着たウエーターが上品なオードブルを運び、シャンパングラスが「チリン」と鈴のような音をたてている。

 豪華列車として名高いブルートレイン(Blue Train)で2泊の旅に出る乗客が待つラウンジには、いつ何時も変わらない快適さがある。

 しかし、至れり尽くせりのこの空間にも、2021年の現実が入り込んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)からは、何も逃れることができない。

 少人数に分かれた乗客らは、コロナの迅速検査を行っている近くのセンターまでそっと案内される。陰性を伝えるテキストメッセージが届けば、旅の前菜となる優雅な昼食だ。

 ホームに停車するブルートレイン。木製パネルと磨きこまれた真ちゅうの内装が美しい19両の客車が待ち構えている。

「出発進行!」の合図で列車がホームを離れると、首都プレトリアまで全長1600キロ、カルー(Karoo)の砂漠を通り抜ける48時間のぜいたくな旅が始まる。

 ブルートレインは、世間の煩わしさからしばし脱出する理想的な手段だ。皮肉なことに、コロナ禍以前、南アフリカ人の大半はこの豪華な旅を夢見ることさえできなかっただろう。

 しかしコロナ対策の渡航規制によって、乗客の多くを占めていたオーストラリアやブラジル、日本をはじめとする海外からの裕福な旅行客は途絶えてしまった。昨年11月に大幅な割引料金で運行再開されたブルートレインの乗客は現在、ほぼ全員が国内の旅行者だ。