■故ネルソン・マンデラ氏の席

 67歳の母親と一緒に乗車したケープタウンの医師は、「子どもの頃からブルートレインがあること、それが手の届かない高価なものだということは知っていました」と言った。「新型コロナウイルスのおかげで(乗車が)可能になったのです」

 この親子とは異なり、乗客はほとんどが50代から60代の白人のカップルだ。乗車券は割引後でも最低2万3000ランド(約17万円)。世界の中でも貧富の差が大きい南アフリカでは、月額最低賃金の平均の4倍に相当する。

 夕食の時間が近づくと、スピーカーからドレスコードの説明が流れる。男性はジャケットかベストを着用、女性は「できる限りエレガント」に装うよう求められる。 

 3品から5品のディナーコースでは、一皿ごとに異なるワインとのペアリングが楽しめる。デザートは、チーズケーキをアレンジしたプレートか、レモンのメレンゲタルト。食後酒としてグラッパか、南アフリカ・クラインコンスタンシア(Klein Constantia)産の白のスイートワインが続く。

 これは「ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)氏のお気に入りでした」とレストランのマネジャーを務めるシドニー・マセンヤニ(Sydney Masenyani)さん(61)が言う。

 1981年にやや小さな列車のシニアウエーターとしてこの道に入ったマセンヤニさんは、アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃から2年後の1993年、白人のみのスタッフチームに加わった。

 さらに4年後、改装を経てすっかり生まれ変わったブルートレインの発車式の際にマンデラ氏が乗車した。米音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)さんや、英モデルのナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)さんも一緒だった。マセンヤニさんは賓客の歓迎シーンや緊張したボディーガードの様子などを鮮やかに振り返り、「最高だった」と語った。

 彼にとってその日のハイライトは、マンデラ氏のお気に入りだった「パッションフルーツ入り」フォンダンショコラと南アフリカ産のデザートワインを席まで運んだことだった。

「彼の席はまさにあなたと同じ、そのテーブルだったんですよ」とAFP記者に向かって陽気に言ったマセンヤニさん。これを耳にした乗客が「誰にでもそう言っているんでしょう」と冗談を飛ばした。(c)AFP/Gersende RAMBOURG