【3月25日 AFP】数十億年前、火星には湖や海があった。だがその後、水はすべて消えうせ、今日知られているような荒涼とした岩石惑星に変容した。水の行方は謎となっている。

 水の大半は宇宙空間へと消失したと、これまで考えられていたが、米航空宇宙局(NASA)から資金援助を受けた最新の研究では、水はどこかに消えたのではなく、表層の鉱物の中に閉じ込められているとする説が提唱されている。

 米科学誌サイエンス(Science)に掲載された最新論文の筆頭執筆者、エバ・シェラー(Eva Scheller)氏は、AFPの取材に「今回の研究では、含水鉱物と呼ばれる、実際に結晶構造中に水を含む鉱物が、火星の表層で形成されていると説明しています」と語った。

 シェラー氏のモデルでは、当初存在した水の最小で30%、最大で99%が、鉱物内部に閉じ込められたままになっていることが示唆されている。

 初期の火星には、水深約100~1500メートルの海で惑星全体を覆うのに十分な量の水が存在したと考えられている。

 火星は歴史の初期段階に磁場を失ったため、大気が徐々に剥ぎ取られたが、このようにして水も失われたと考えられていた。

 だが、今回の論文の執筆者らは、水の一部は実際に消失したものの、大部分は火星にとどまったと考えている。

 研究チームは、火星探査車の観測データと火星由来の隕石(いんせき)を用いて、水の主要な構成要素である水素に着目した調査を行った。

 水素原子には複数の種類がある。大半の水素は原子核の中に1個の陽子しかないが、全体の約0.02%というわずかな割合で、陽子と中性子の両方がある、通常より重い水素が存在する。これらは「重水素」として知られている。

 軽い種類の水素原子の方が速いペースで火星大気から脱出するため、相対的により多くの重水素が後に残されると考えられる。

 だが、最初に火星に存在したとみられる水の量と、探査機で観測される現在の水素の脱出速度を考えると、現在の重水素と水素の比率を、宇宙空間への消失だけで説明するのは不可能だ。

■恒久的な喪失

 論文の執筆者らによると、表層鉱物への水の閉じ込めと、大気中への水の消失という二つのメカニズムが重なって作用したという。

「岩石があり、それが水と相互作用する場合はいつでも、一連の非常に複雑な反応が起き、含水鉱物が形成されます」と、シェラー氏は説明した。

「化学的風化」と呼ばれるこのプロセスは、地球でも粘土などで発生する。粘土は火星でも見つかっている。

 地球では、水は火山によって大気中に再循環される。だが、火星には構造プレートがないので、この変化は恒久的なものとなる。

 研究チームが実施したシミュレーションによると、火星から大半の水が失われたのは40億~37億年前の期間だという。これは「火星が過去30億年間、今日見られるのとほぼ同じ状態だった」ことを意味すると、シェラー氏は指摘した。

 火星に先月着陸したNASAの探査車「パーシビアランス(Perseverance)」は、この分野の研究に寄与してくれるのではないかと同氏は期待を寄せている。(c)AFP/Lucie Aubourg and Issam Ahmed