■ブランド名は付けない

 来店者があると、ヨバノフさんか、映画業界でも働いている息子のネマニャさんが、小さな店の中の木の棚に並ぶラベルのないガラス瓶について説明する。

「私たちにブランド名はない。ブランドのボトルもない。ブランドの箱もない。お客さまが自分の好みを発見する体験を味わえるように、パッケージも内装もできる限りシンプルにしています」とネマニャさんが説明する。

 選ぶときにはフローラル、シトラス、スイート、ムスクなどの好みを聞いてから、昔ながらのやり方で客の腕に香りをスプレーして試してもらう。

 次いで客には、しばし散歩に行って、戻って来てから気に入った香水を選ぶよう勧める。香りは最初に肌に付けたときから時間がたつと変化するからだ。

 店は常連客のおかげで生き延びている。また、ヨバノフさんが「生きたミュージアム」と形容するこの店そのものに興味を抱く観光客も増えている。

 嗅覚を奪われる人が多い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する現在、香りを尊ぶ気持ちも深まっている。「嗅覚は最も重要な感覚の一つです」と白衣姿のヨバノフさんは言う。香りは「私たちを別の場所、別の時代に連れて行ってくれるのです」

 映像は2月3日撮影。(c)AFP/Sally MAIRS