【3月21日 東方新報】インターネットやスマホアプリを通じて単発の仕事(ギグワーク)を請け負う労働者「ギグワーカー」が中国で増加している。知的労働も含めると、その数は日本の人口より多い2億人。中国政府は経済成長や就業支援、新型コロナウイルス対策につながるとみてギグワークを推奨しているが、労働者の権利保護も課題となっている。

「ギグエコノミー市場の構築を支援して雇用のルートを広げ、意欲と能力のある人のために公平なチャンスを生み出していく」。全国人民代表大会(National People's Congress、全人代)で今月5日、李克強(Li Keqiang)首相は今年の経済方針を示す政府活動報告の中で、政府としてギグエコノミーを促進していく姿勢を明確にした。

 ギグワーカーというと代表的なのはデリバリー配達員。日本のウーバーイーツ(UberEATS)のように自転車で食事の配達をするだけでなく、プラットフォームサービスを介してあらゆる商品をバイクで配達しており、「消しゴム1個だけでも配達する」といわれるサービスを徹底している。続いて多いのがオンライン配車サービスだ。昼の仕事を終えた会社員が自家用車を使い、夜はタクシー運転手に変身。シートは革張りで乗客にミネラルウオーターのサービスもするなど営業努力をしているドライバーが多く、通常のタクシーより人気が高いほどだ。

 さらに、日本のユーチューバーのようなライブ配信パーソナリティー、日本の着物にあたる「漢服」デザイナー、整理収納アドバイザー、ゲームデザイナー、eスポーツプレーヤー、ミルクティー試飲担当者、ネット文学作家など職種は多種多様。個人の能力を使って柔軟に働いているという意味で「フレキシブルワーカー」とも呼ばれている。人力資源・社会保障省によると、フレキシブルワーカーを含む広義のギグワーカーは2億人に達したという。

 昨年から新型コロナウイルス感染症が拡大する中、デリバリー配達員は「ステイホーム」を余儀なくされた時期の市民にとって不可欠の存在となった。また、コロナ禍により失業した労働者にとってギグワークは再就職の大きな受け皿となった。政府にとってギグワークは感染拡大を抑制し、経済成長を下支える存在となっている。

 一方、インターネット上では「ギグワークは青春飯(若い時だけできる仕事)にすぎない」という指摘も出ている。デリバリー配達員は体力勝負の面があり、他にも昼夜働くタイプのギグワークは長年続けるのが難しく、安定した職業とは言えない側面がある。

 昨年12月には、食事配送サービス大手「餓了麼(Ele.me)」の業務を受けた43歳のデリバリー配達員が配送中に突然死したことが論議を呼んだ。配達員と直接契約するウーバーイーツと異なり、中国の配達員はプラットフォーム企業を仲介して仕事を請け負っている。餓了麼は「死亡した配達員とわが社の間には雇用関係は存在しない」とし、「人道主義」にもとづき2000元(約3万3427円)だけ支払うと遺族に伝達。配達員としての保険も3万元(約50万1408円)にとどまった。その後、餓了麼の対応が明るみに出て批判が高まると、同社は急きょ遺族に60万元(約1003万円)を補償すると表明したが、ギグワーカーの待遇の不安定さを如実に表す事例となった。

 中国メディアは「ギグワーカーに対する保険、年金、労災といった社会保障が不足している」と指摘。就業能力を高める「デジタル育成コース」の設置や、賃金未払いなどのトラブル相談を受け付けるホットラインの設立などが必要とされ、政府も対応を進めている。(c)東方新報/AFPBB News