【3月20日 AFP】サメの襲撃を生き延びたオーストラリア人サーファー、デーブ・ピアソン(Dave Pearson)さん(58)は、同じ体験をした被害者が対話を通じて助け合う国際組織を率いている。その名も「バイト(かみつき)クラブ(Bite Club)」。会員は世界で数百人に上る。

 ピアソンさんは10年前、オーストラリア東海岸沖でサーフィン中、体長3メートルのオオメジロザメに激突され、ボードごと引き回された。かまれた左腕は肉が裂け、骨が出ていた。友人たちの手でどうにか浜に連れ戻されたピアソンさんはその日から、同じ被害者たちが心の傷を癒やす過程を支援している。

「私の人生イコール、サメの襲撃です」。自らが襲われた海岸で、今も続けている日課の波乗りの後、ピアソンさんはAFPに語った。「世界のどこかでサメの襲撃が起きると、私に連絡が来ます」

 バイト・クラブは当初、サメとの遭遇から生還した人たちの小さな集まりだったが、今では犬やワニ、中にはカバにかみつかれた被害者まで参加している。入会したいと思ったら、まずはピアソンさんと話す。

 400人近くいる会員は通常は少なくとも年に1度、定例会で直接顔を合わせている。それ以外にもサーフィンで頻繁に会っている人や、ソーシャルメディアで連絡を取り合う同士もいる。クラブは生還者の連絡網であり、ピアソンさんはほぼ毎夜、少なくとも1人と電話で話している。

 他の被害体験者との会話がどれだけ力になるか、ピアソンさんは入院中に実感した。同じ施設で偶然、ピアソンさんの数日前にサメに襲われたリサ・マンディ(Lisa Mondy)さんが治療を受けていたのだ。

「いろんな人が見舞いに来て元気づけてくれましたが、リサと話すまで、自分の気持ちは誰にも分からないと思っていました」とピアソンさんは振り返る。

 襲撃の残虐さは、被害者だけでなく親族や救助者までをも長年苦しめることがあり、時に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす。

 2013年、ケビン・ヤング(Kevin Young)さんの息子ザックさん(当時19)は、豪南東部コフスハーバー(Coffs Harbour)近くのサンゴ礁でサーフィン中、イタチザメに襲われ死亡した。ヤングさんは、ハリケーンにのみ込まれたような衝撃を受けたと言う。「あれ以来、ずっとそんな状態のままでいる気がします」

 ザックさんは両脚がほぼ完全に切断された状態のまま、自らサーフボードを手でこぎ、3人の友人の元にたどり着いた。当時10代だった友人たちはザックさんを背負いボードで浜に戻ったが、すでに彼は息絶えていた。