【3月18日 AFP】家賃が高いことで悪名高い過密都市・香港のミュージシャンは、窮屈なステージで演奏することに慣れている。しかし、創業47年の麺料理店「源興隆麺家(Yuen Hing Lung Noodles)」ほど狭苦しく、型破りなステージはめったにない。

 ある平日の夜、300平方フィート(約28平方メートル)の店内には、ジャズバンドの本格的な演奏が響いていた。積み重ねたコーラのケースや食卓が譜面台代わりだ。コントラバス奏者は、普段は麺をゆでる調理スペースになんとか場所を確保した。

 この場に観客はいない。

 香港は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、厳格なソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)を導入しており、多くのエンターテインメント産業と同様に、ライブ音楽業界は大打撃を受けた。

 源興隆麺家での演奏はインターネット配信されており、数百人の視聴者から寄付を募っている。

 さまざまなジャズ奏者を招いて2か月に1度開かれる演奏会は、コントラバス奏者のジャスティン・シウ(Justin Siu)さんが思い付いたものだ。

 ここに集まるのは、この1年で仕事が激減した仲間だ。

 シウさんはAFPに「パーティーやバー、結婚式で演奏してきたが、全て無くなってしまった」と語った。

 店主のポール・ソー(Paul So)さん(61)は、飲食店は営業時間の短縮や複数回のロックダウン(都市封鎖)を乗り越えなければならなかったが、ミュージシャンはそれ以上に苦労しているのを知っていると語った。

「音楽のことはよく分からないが、聞くのは大好きだ」とソーさん。ソーさんはまれに取る休みの日に、シウさんに無料で店を提供している。「私はクリエーションのひらめきがあればいいなと思って、場所を提供しただけだ」

 シウさんは、普段演奏してきた高級ホテルやジャズバーと異なり、源興隆麺家には独特の懐かしい雰囲気があると言う。店の内装の大部分は、1970年代から変わっていない。

 ライブ配信での寄付は、リアルのライブの出演料に比べるとわずかだが、今はなんでも助けになるとシウさんは話す。「最終的に、ライブ配信が香港のアーティストの生計を支えるようにしたい」 (c)AFP