【3月21日 AFP】雄大なピラミッドを望むエジプト・ギザ(Giza)の小屋から放った20羽のハトが、夕日で赤く染まったカイロの空を舞う。

 アブデルラフマン・ガマル(Abdel-Rahman Gamal)さん(30)は、6歳の頃からハトの世話をしている。ハトへの深い愛情は、祖父と叔父から受け継いだものだ。カイロ西部の自宅の屋上で、ガマルさんは弟のオマールさん(28)とともに40羽ほどを飼育している。

 エジプト伝書バト連盟(Egyptian Federation for Homing Pigeons)のアハメド・ハリファ(Ahmed Khalifa)代表は、ハトにまつわる伝統は古代エジプト王(ファラオ)の時代にまでさかのぼると語った。「神殿の壁にもハトの絵が彫られていました」

 ナイル川(Nile River)流域の中東から北アフリカ、さらに広い地域にかけて、ハトを飼いならす習慣は世代を超えて受け継がれている。ハトはレース用に訓練されるだけでなく、高級料理としてテーブルにも並ぶ。

 たとえコロナ禍でも、あるいはシリアやイエメンなど政情が不安定な地域でも、アラブ諸国のハトへの情熱が冷めることはない。ハトのレースは依然人気が高く、観衆を魅了している。

■ハト取り合戦

 カイロの家々の屋上には色鮮やかなハト小屋が点在しており、巣の大きなアパートになっている。

 ここでは毎日のように、屋上から飛び立つ数千羽のハトの取り合いが行われている。愛好家らは互いのハトを捕まえて、自分の飼いバトに加えようとする。

「誰かのハトが自分のところに飛んできたら、それはもう私のものです。いわば人質です」とガマルさん。数日以内にガマルさんのライバルの持ち主らが、ハトを取り戻すか「身代金」を支払うためにやって来るという。

■グリルや詰め物料理で

 一方で、食事としてハトを楽しむ人々もいる。モロッコから湾岸諸国まで、ハトはグリルや詰め物料理で提供される。

 エジプトでは、米やフリーク(麦からできたシリアル)が詰め物料理に用いられる。ある店の常連客は「カイロを堪能するには、ハトの詰め物を食べるのが一番です」と語った。

 だが、ハト愛好家のオマールさんには、食べようという気は全くない。「ハトが好きなら、食べることはできません。味はよくないでしょう」と断言した。(c)AFP/Hager Harabech with AFP bureaus