【4月16日 AFP】プリヤ・シャルマ(Priya Sharma)さん(仮名)は30キロ以上の道のりを車を走らせ、インドの首都ニューデリーのにぎやかな住宅街のショッピングモールまでやって来た。お目当ては、女性専用の酒店だ。

 インドでは女性への嫌がらせや差別が日常茶飯事で、多くの女性が夜間の外出に不安を抱いている。ニューデリーでは土曜の夜、熱気に包まれて混み合った酒店でワインやウイスキーのボトルを買うのも一苦労だ。客は、ほとんどが男性で、店員に向かって大声を張り上げて注文する。

「酒店に入るのはいつも避けていました」。シャルマさんは、「女性専用」という文字がガラスに掲げられた店内でAFPのインタビューに応じた。ニューデリー東部に2015年にオープンしたこの店は、インド初で唯一の女性専用酒店とされている。シャルマさんは家族に外出先を知られないよう仮名を希望した。「たいていは誰かに頼んで買ってきてもらっています」

 店の入り口までシャルマさんに付き添って来た男性は、「酒を買って来て飲む女性を(多くの)男性がとがめるのは事実だ」と語った。この店は、カップルでなら男性も入店できるが、カップルで来る客はめったにいない。

「僕たちがこの店を選んだのは、彼女が落ち着いた環境で欲しい物を決められるからです」

 インドでは、2012年にバスの車内で若い女性が集団レイプされて殺害された事件が起きたのをきっかけに抗議デモが何週間も続き、国内全土で女性に対する犯罪が厳罰化された。都市部では、バスや地下鉄車内の女性専用座席も一般的になってきた。

 だが、ニューデリーの女性たちは今なお、酒店では好奇の目で見られると話す。

 アニーシャ・サイガル(Anisha Saigal)さん(29)は、酒店から出て来ると、自分の車や自宅まで歩く間、非難の目を向けられて「道徳的な行動規範」を問われることが多く、それは他国では直面したことがない種のものだと説明した。

「女性がアルコールを買うと、何かされることはなくても、ずっとじろじろ見られて迷惑だし、不安になる」と話した。

「この商売に就いて長いですが、女性客が酒店で居心地悪そうにしているのを見てきました」と店長のウメシュ・サクセナ(Umesh Saxena)さんは言う。

「客からは、安心して酒が買える店があってうれしいと言われます」 (c)AFP/Aishwarya KUMAR