【3月9日 AFP】新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)を繰り返すアイルランドで、営業できなくなった一軒のパブが同国初の野生動物病院として生まれ変わり、まったく新しい客層を相手にしている。

 首都ダブリン北西のミーズ(Meath)州にあるパブ「タラ・ナ・リ(Tara Na Ri)」に今、客の姿はない。窓にはブラインドが下げられ、ギネス(Guinness)ビールの注ぎ口は乾ききり、レジの中も空っぽだ。

 一方、店の離れは大にぎわい。かつて厩舎(きゅうしゃ)だったその建物の一室では、山腹で保護され「リアム」と名付けられた生後2週間の野生のヤギの赤ちゃんが、哺乳瓶でミルクを飲ませてもらっていた。

 別の部屋では、わらの上で白鳥3羽が巣ごもり、新居に落ち着いたばかりのキツネが用心深くこちらをうかがっている。手当てを受けるノスリは目をまん丸にしている。

「私たちは、ただ一つの生き方にすっかり慣れていた」と、一家で10年以上にわたりパブを経営してきたジェームズ・マッカーシー(James McCarthy)さんは語る。「それが奪われたとき、心にぽっかり穴が開いたようになる。代わりになる何かが見つかるまでには少し時間がかかり、それは、今までそんなことが可能だとは思いもつかなかったものになることもある」

 マッカーシーさんは政府後援の野生動物保護団体「ワイルドライフ・リハビリテーション・アイルランド(WRI)」に離れを譲り、パブでエールビールをグラスに注ぐ代わりに、店頭で持ち帰りコーヒーのドライブスルー販売を行っている。

■地元とのきずな

 このWRIの施設は、2月19日に開設された。種類や大きさ、治療内容を問わず、あらゆる動物を受け入れられる動物病院としてはアイルランド初となる。

「一年で最も忙しい『孤児の季節』に備えているところだ」と、スタッフのダン・ドノハー(Dan Donoher)さんは診察台の上でばたつくハトをなだめながら話した。「ひな鳥やキツネの赤ちゃんをたくさん受け入れることになるだろう。この先、半年は忙しくなる」

 タラ・ナ・リは、古代遺跡「タラの丘(Hill of Tara)」の近くにあり、店名は「王たちのタラ」を意味する。

 アイルランド社会、それも田舎では、パブは重要な役割を担っている。昨年3月にタラ・ナ・リが営業を中止したのは、地元の人々にとって一大事だった。だが、離れを改修する際には、地元の常連客たちがボランティアとして喜んで協力してくれたという。

「私たちは常連客を受け入れ、彼らも私たちを受け入れてくれた」とWRIのイーファ・マクパートリン(Aoife McPartlin)さんは振り返った。「おかげで、こうして病院を開設できた」