【3月21日 AFP】セルビアの首都ベオグラードで石畳の通りに立つ香水店「サバ(Sava)」は、爽やかな香りを人々に届ける使命を半世紀以上にわたって守り抜いている。

 職人技でオリジナル香水を調合するこうした店は、ベオグラードにはもう1軒しか残っていない。サバ香水店が今もあるのは、技術の継承に力を尽くしてきた店主のネナド・ヨバノフ(Nenad Jovanov)さん(71)一家のおかげだ。

 ベオグラードという街は多くの変遷をたどってきたが、この店の姿は昔と変わらない。店頭に並ぶガラス瓶や、香水を調合する試験管などの器具は、3世代にわたり受け継がれている。

 ヨバノフさん一家は別の収入源を持つことによって、商売としてではなく、香水への愛情から店を続けることができている。

「うちが生き残っている理由は、伝統、愛情、愛着、そして時に食べていけるほど稼げない仕事だがやりたいという強い気持ちです」。奥まった実験室のような部屋で、ビーカーやピペットで原材料を量り、オーダーメードのオードトワレを調合していたヨバノフさんはAFPに明るく語った。

 店の歴史は1940年代にさかのぼる。当時のユーゴスラビア共産主義政権によって私企業が禁じられたものの、後に一部認められるようになり、ヨバノフさん一家も10年後に店の所有権を取り戻した。1950年代から60年代にかけてのベオグラードでは香水店が「黄金期」を謳歌(おうか)し、家族経営の店が20軒以上はあったとヨバノフさんは振り返る。

 しかしユーゴスラビアが輸入に門戸を開き始めると、大量生産された香水が流入し、国内の調香師たちは廃業に追い込まれていった。

 さらにユーゴスラビアがいくつもの内戦を経てセルビアなど数か国に分裂した1990年代は、国際社会の制裁が香水業界にも壊滅的な打撃を与えた。「1店、また1店と閉まり、最後にうちだけが残った」とヨバノフさんは言う。