【3月4日 AFP】獣医師が車で去ろうとすると、男性が飛び出してきて叫んだ。「分かったよ。さあ、サルを連れて行きな!」

 男性は、動物環境保護団体「Save Gabon’s PrimatesSGP、ガボンの霊長類を救え)」の獣医師の説得に折れて、2匹の子どものマンドリルを引き渡した。今は親のいない2匹が生まれたのは、アフリカ中部西海岸・ガボンの大半の地域を覆う赤道直下の熱帯雨林だ。

 ゴリラやチンパンジーと同様に、マンドリルも狩猟、捕獲、売買、拘束が法律で禁じられている。マンドリルの肉は今でも一部で珍重されているが、家庭でペットとして飼育したがる人々もいる。赤ん坊のうちに密猟者から手に入れるケースが多く、それも違法行為だ。

 獣医師のティエリー・ツォンブ(Thierry Tsoumbou)氏(34)は、野生動物の問題を周知させ、SGPのリハビリテーション・プログラムを推進する活動を行っているが、その間にさまざまな言い分を聞かされるのには慣れている。

 この日は、首都リーブルビルから東へ約700キロのモアンダ(Moanda)で、2匹のマンドリルを飼っている男性と家の外で話をしているところだった。

■罰則の話で説得

 ツォンブ氏はこう説明した。「2003年からサルを家で飼うのは法律で禁じられています。違反すると、当局の職員が強制的に引き取り、飼い主は責任を問われますよ」

「いくら払ってくれる?」と男性は尋ねた。

「お金は払いませんが、これはあなたのためにも動物のためにもいいことです」とツォンブ氏は答えた。

 飼い主の男性は納得がいかないようだった。「金を払う気がないのなら、森に放した方がましだ」

 ツォンブ氏はなおも説得を続けた。人に飼われていたサルは、森の環境に慣れず、森に放されても死んでしまうこと。サルは、エボラ出血熱のような深刻な病気を人にうつしかねないこと。「しかも、サルは育てば育つほど、攻撃的になり、手に負えなくなります」

 その間、当のマンドリルたちはトラックの解体場で跳ね回っていた。追い掛け、マンドリルを抱きかかえる子どもたちもいた。

 ツォンブ氏は、「これは何よりサルのため」だとして、サルはペットとしてではなく、「森の群れの中で生きる必要があるのです」と畳み掛けた。

 動物を差し押さえる権限は、国の水・森林省にしかない。だが、保護対象となっているサルを飼うと、数か月の懲役と最高で1000万CFAフラン(約200万円)の罰金を科される。これらの罰が実際に科されることはまれだが、脅しとしては効果てきめんだ。

 ぎりぎりのところで飼い主は思い直し、帰ろうとするツォンブ氏の車を止めたのだった。