■「世界で最もトランスジェンダー嫌悪の国」

 2人が住むブラジルは「世界で最もトランスジェンダー嫌悪の国だ」とソフィアさんは指摘する。

 ブラジルの人権団体「トランスベスタイト(異性装者)とトランスセクシュアル全国協会(National Association of Transvestites and TranssexualsANTRA)」によると、昨年ブラジルで殺されたトランスジェンダーの人々は175人。国別で最多だ。

 中南米最大の国ブラジルは、男性優位の文化が強く、同性愛嫌悪が横行していることで知られている。極右として知られるジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領が典型だ。

 マイラさんとソフィアさんは、子ども時代に心に受けた傷が癒えず、今でも誰かに虐待されるのではないかとおびえながら生きている。しかし、常に家族の支えがあったと言う。

「両親は、私たちが虐待を受けることを恐れていた」とマイラさんは振り返る。手術代の10万レアル(約190万円)を払ってくれたのは祖父だ。自分の不動産を売って費用を捻出してくれた。

 母親のマラ・ルシア・ダシルバ(Mara Lucia da Silva)さん(43)は、2人がトランスジェンダーであることを明らかにした時は、ほっとしたと話す。2人が子どもの頃には医師や心理学者に診てもらったと言う。

「私の心の中ではずっと、あの子たちは女の子だった。苦しんでいることも知っていました」とダシルバさんは続けた。学校秘書の彼女には、他に2人の娘がいる。

「どうして人形やワンピースを与えてやらなかったんだろうと悔やんでいます。女の子としてもっと幸せな子ども時代を送らせてやることもできたのに」

 だが、マイラさんとソフィアさんは、母親が大きな支えになってくれたと話す。

「外で誰かに何かされるたび、私たちが真っ先に考えたのは、家に帰ってママに伝えることでした。そうするとママは抱き締めてくれるんです」とマイラさんは言う。「ママは雌ライオンみたいだった。いつも猛然と守ってくれた」