【2月28日 AFP】紅海(Red Sea)の唯一無二のサンゴ礁が、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)を結ぶ石油パイプライン計画によって脅かされ、「次なる生態学的災害」が起きる恐れがある──イスラエルの環境問題専門家らが警告を発している。

 昨年末の国交正常化後、イスラエルは紅海に面したエイラート(Eilat)港にあるパイプラインに、UAE産の原油をタンカーで搬入する取引に合意・署名した。協定は数か月以内に発効する予定だ。

 だが、専門家らが老朽化した港での油の漏出や流出の可能性を警告し、イスラエルの環境保護省がこの協定に関する早急な話し合いを要請する中、抗議活動が行われた。

「サンゴ礁から石油の搬入地点までは200メートルだ」と語るのは、紅海環境保全協会(Society for Conservation of the Red Sea Environment)の設立メンバーで、エイラート在住のシュムリク・タガー(Shmulik Taggar)氏だ。

 同氏は「彼らはタンカーは近代的で問題は起きないと説明している」が、「異常が起きないとは言い切れない」と警告。また「埠頭(ふとう)のそばにタンカーがあると、グリーンツーリズムを推進できなくなる」と指摘する。

 イスラエルとUAEは昨年9月、米国が仲介した「アブラハム合意(Abraham Accords)」の中で、国交を正常化した。これに続いて、イスラエルのヨーロッパ・アジア・パイプライン(Europe-Asia PipelineEAPC) が10月、UAEとイスラエルの間で新しく設立された合弁企業、MED-REDランド・ブリッジ(MED-RED Land Bridge)と覚書を交わした。UAEの原油をエイラートからイスラエルの地中海沿岸の都市アシュケロン(Ashkelon)までパイプラインで運び、欧州に輸出する計画だ。

 活動家らは、EAPCは政府系のエネルギー企業という立場によって厳格な規制を逃れたと主張する。

 エイラートのサンゴ礁は独特な高温耐性のおかげで、世界の他のサンゴ礁でみられる白化現象も起きず、状態が安定している。海岸から約1.2キロの沖合まで広がるサンゴ礁の保護区には、多種多様な海洋生物が生息している。

 だが、EAPCの港に近接しているためにサンゴ礁は深刻なリスクにさらされていると、同国ベングリオン大学(Ben Gurion University)の海洋生物学者、ナダブ・シャシャール(Nadav Shashar)教授は指摘。ひとたび事故が起きれば、サンゴ礁のすぐそばで石油流出が続いてしまうと懸念する。

 10月の合意後、EAPCはエイラートに運ばれる原油について「年間数千万トン」増加させる余地があると明らかにしている。AFPの取材に対し、同社は設備は「最先端」で国際基準を満たしていると強調した。

 環境保護省は十分監査を行ったとしつつも、協定について再検討するため、「政府の全関連機関に対し緊急協議」を呼び掛けた。協議では「原油輸送量の増加について、環境面を含めたあらゆる面から検討する」という。(c)AFP/Jonah Mandel