【3月6日 AFP】香港に別れを告げる時が近づく中、ジュディさん(36)は自己不信と罪悪感にさいなまれている。新しい生活を求めて地球の反対側の英国に家族を連れて行くという、断腸の思いで下した決断は正しかったのだろうか。

 ここ数年、香港当局が民主化デモの波を退け、抗議運動の参加者を追い回す姿をジュディさんは見つめてきた。

 1997年に香港は英国から中国に返還されたが、それ以前に生まれた香港人への移住ビザ(査証)を英国が最近導入すると、ジュディさんと夫は飛びついた。このビザは英国の市民権獲得への道を開くものだ。

 ジュディさんは広報関係の仕事をやめ、2人の子どもを含め一家で4月に英国に出発する準備を進めている。しかし、友人、親族、そして香港の食事や言葉と別れるのは容易ではない。

 90代の祖父を「人生の最後に置き去りにする」ことにもなると語るジュディさん。「とても後ろめたくてつらい。でも、香港にはもうとどまりたくない。安全とは思えないから」

 AFPは数週間にわたり、英国移住を計画中もしくは移住済みの十数人の香港人にインタビューした。ジュディさんはそのうちの一人だ。包み隠さず話してくれた人もいるが、ジュディさんをはじめ、匿名を希望した人もいる。

 英国の新移民政策は、中国政府が昨年、香港に導入した国家安全維持法(国安法)に対応する措置だ。

 香港人の何人がこの機に乗じるかは分からない。コロナ禍により世界中で通常の活動が阻害され、国際航空便が急減している最中でもある。

 1997年以前に生まれた香港人に所持資格がある英国海外市民(BNO)パスポート(旅券)の申請数は、昨年7月に国安法が導入されてから300%増加した。

 英国は今後1年間に最大15万4000人、5年間で32万2000人の香港住民が移り住むと予測している。

 親中派議員の葉劉淑儀(レジーナ・イップ、Regina Ip)氏は、英国に移る人々は「所持金やスキル、教育もない」と切り捨てている。

 だがそのイメージは、1997年の返還前に香港を離れた数十万人と同じく、AFPの取材に応じた移住予定者らの平均的な実像とはかなり開きがある。