【2月23日 AFP】1789年のフランス革命中に処刑された王妃マリー・アントワネット(Marie Antoinette)が自分のために建てた劇場は、繊細な手入れが必要とされる歴史ある至宝で、新型コロナウイルスの流行の有無にかかわらず、この舞台で上演が行われることはめったにない。

 ベルサイユ宮殿(Palace of Versailles)の保存管理責任者、ラファエル・マッソン(Raphael Masson)氏によると、アントワネットが生きた18世紀後半は「演劇熱」が広がっていた時代で、裕福な王侯貴族や金融家の多くが、自分の所有地に自前の劇場を建てていた。

 アントワネットも大の音楽・演劇好きで、宮殿の敷地の奥深くに、付き人らと一緒に日常から逃れることのできる自分の劇場を造らせた。

 アントワネットが1785年、最後の舞台となる「セビリアの理髪師(The Barber of Seville)」のヒロイン、ロジーナ(Rosine)を、作者ボーマルシェ(Beaumarchais)の目の前で演じたのはこの劇場だった。

 マッソン氏によると、18世紀に建てられたフランスの劇場で、今日まで当時の舞台装置が残っているのはここだけだ。セットは質素な室内と森の中、ミネルバ(Minerva)神殿の3種類。1754年に作られた神殿のセットは、当時のまま残る舞台装置としては世界最古となっている。

 これらのセットは背景が舞台両側からレールに乗って動く仕組みになっていて、当時は非常に革新的だった。「18世紀の特殊効果だ」とマッソン氏。「18世紀の舞台装飾の高度な技術を示す証拠だ」

 一方、フランス革命時にはこの劇場は価値がないとみなされ、売却されなかった。

 新型コロナ流行で見学者がいない現在、保存管理チームは新たなどんちょうの製作に取り組んでいる。まばゆいコバルトブルーのリネンを、当時の技法そのままに手縫いしている。

 また、宮殿に残る当時の目録を使い、舞台上に木をせり上がらせる装置など、長い歳月の間に失われてしまった部分の再現も試みている。

 この劇場は、2001年に大規模な修復によって再び上演ができるようになったが、極めて繊細な造りであるがゆえ、2年に1回コンサートが行われるだけだ。(c)AFP/Rana MOUSSAOUI