【2月22日 AFP】湖に浮かぶ村に夜が訪れると、漁師のレン・バン(Leng Vann)さんは、たばこを吹かし、トンレサップ(Tonle Sap)に向かってため息をつく。この巨大な内陸湖は何世紀にもわたり、カンボジアの人々の生活を支えてきた。

 湖上と周辺に合わせて100万人以上が暮らすトンレサップ湖は世界最大の内陸漁場だが、気候変動とメコン(Mekong)川上流のダムが原因で水位が急激に低下し、水産資源が減少している。

 湖はかつて、魚介類や野生生物が豊富なことで知られていた。43歳になるバンさんは、網で1日に数百キロもの魚を捕獲できたと振り返る。

 バンさんが暮らす水上家屋は、雨期の終わりである10月中旬に家があるはずの位置より5メートルも低くなっている。そして、湖から網を引き上げても何もかからないのだ。

「私たち漁師は、水と魚で生きています。水と魚がなくなれば、他に何を当てにできるでしょうか」と、バンさんは話す。

■運命の逆転

 世界遺産(World Heritage)の自然環境保全地域であるトンレサップ湖は、独特な季節性の逆流現象に依存している。乾期には、湖の水は流れの速い川を通してメコン川に流出する。

 だが、5月から10月までの雨期が来ると、巨大なメコン川の水流が非常に強くなるために逆流が起こり、湖に水が流入する。

 流域の国家間の水利関係を管理する国際機関のメコン川委員会(MRC)によると、流入ピーク時のトンレサップ湖は最も小さくなる時の4倍以上の大きさに拡大し、面積が1万4500平方キロに達するという。

 だが最近、この逆流に重大な遅滞が生じている。

 2019年、トンレサップ湖への流入量は2000年頃の平均水準から約4分の1減少した。

 2019年の大規模渇水や、エルニーニョ(El Nino)現象などの気候変動に関連する気象状態が、トンレサップ湖の危機の一因となっている。

 さらに、メコン川本流全域に大型ダムが十数か所と、支流により小規模のかんがいダムが建設されていることも、川の流れを減速させる要因の一つとなっていると、環境保護活動家らは指摘する。