■「海を救いたい」

「ネットフリー・シーズ」は開始後1年で、15トンの廃棄ネットを海中から引き揚げた。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、海中に流失する、または放置される漁具類は年間64万トン。それと比べれば微々たるものだ。それでもこの回収事業は、地域の漁業関係者から熱烈に支持されている。

「これは、ウィンウィン(双方に利益がある)の状況」と語るのは、ラヨン(Rayong)市の漁師ソムポン・パントゥマート(Somporn Pantumas)さん(59)。「地元漁業は新しい収入源を得ることになり、浜や海はきれいになるし、漁師の間に仲間意識が出てきました」。タイ全体で700人の漁民が、使い古しの漁網をネットフリー・シーズの事業に売っている。

 ラヨン沖では、魚よりもプラスチックの破片の方が多くとれることがよくあるとソムポンさんは言う。「ごみは集めても集めても、さらに流されてくる」

 回収された漁網は、リサイクル原料から家庭用品を製造している小企業クオリーデザイン(Qualy Design)に運び込まれる。そこで洗浄、寸断され、他の投棄プラスチックと一緒に溶かされ、成型される。

 製造されたフェースシールドやアルコールスプレーのボトル、テーブルの間仕切りなどはコロナ禍の当初から、首都バンコク周辺のレストランで使われている。

 中でも画期的なのは、「プッシュスティック」と呼ばれるペン形のプラスチック製品。エレベーターのボタンや、ATMなどの共用タッチパネルを操作するときに使えば、接触感染の心配がない。

 他の材料と比べて、漁網は最も扱いにくくコストが高い、とクオリー社のマーケティング責任者トッタポン・スパメーティークーンワット(Thosphol Suppametheekulwat)氏はAFPに述べた。「でも、わが社では本当に飛びつきました。私どもも海を救いたいですから」 (c)AFP/Dene-Hern CHEN and PITCHA Dangprasith