【1月27日 AFP】米カリフォルニア州ロサンゼルスの予防接種センターの前には、寝袋や暖かいパーカ、折りたたみ椅子を持った若い「ワクチンチェイサー(ワクチンを追いかける人)」たちが何時間も並んでいる。廃棄される新型コロナウイルスワクチンの余りを接種してもらおうとしているのだ。

 この冬、新型コロナの新規感染者が急増しているロサンゼルス郡は現在、最前線の医療従事者と65歳以上の人々にのみワクチンを接種している。

 米製薬大手ファイザー(Pfizer)と独製薬ベンチャーのビオンテック(BioNTech)が共同開発したワクチンも、米製薬大手モデルナ(Moderna)のワクチンも供給数が限られているため、こうした優先接種対象者でさえ、予約を取るのは非常に難しくなっている。

 しかし、予約を取ってもセンターに現れない人が毎日何人かいる。それこそが「ワクチンチェイサー」が期待していることだ。

「ごみ箱に捨てられてしまったら、このワクチンは誰の役にも立たないのではないか?」。労働者階級が多く住むロサンゼルス南部の地域保健センターの前にいたイレーヌ・ロー(Elaine Loh)さんは言った。ここでは18時間も待っている人もいる。「ここで徹夜で待てるくらい若くて健康だったら、そうしても構わないのではないか」

 ケドレン地域保健センター(Kedren Community Health Center)の前に並んでいたアダムさんは、何時間も待つことをいとわないと語った。「今すぐオープンするとかじゃなければ、寝て待つよ」

 アダムさんはさらに、「誰もが同じことを感じると思う。なぜ捨てて無駄にするのか、そうだろう?」と問い掛けた。

■一滴も無駄にしない

 余りを入手できる保証は一切ないが、郡の保健当局は現在の優先接種対象ではない人々に余ったワクチンを接種することに対し、正式に処分を下していない。

 ケドレンのセンターのワクチン接種プログラムを監督するジェリー・エイブラハム(Jerry Abraham)医師は「順番待ちのリストも、行列も、待つ人も、公式には存在しないことになっている」とAFPに語った。「(しかし、)一度バイアル瓶を開封したら、すべてを6時間以内に使い切らなければならない」

「予約の列が途絶え、何回分かのワクチンが期限切れになりそうなこともある。私は一滴も無駄にしないようにしている。一滴たりともだ」とエイブラハム氏。「ここケドレンに提供されたワクチンは、決して廃棄しない」

 予約者が現れなかったり、センターの受付終了時間が近づいたりして、ワクチンが使われない恐れがある場合、代わりに接種する人をすぐに見つけるのは困難なため、非公式の待ち行列がありがたい存在となっている。

 それでも、予約者の1~3%が現れず、一方で望みをかけて午前2時に来た若者たちが、何時間も待った後に接種を受けられずに帰っていくのを見るのは「心が痛い」とエイブラハム氏は言う。「私は彼らに何も保証することができない」 (c)AFP