【1月24日 AFP】米国の極右勢力は怒っている。ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領に、ドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領に、謎の「Q」に、そして、自分自身に怒っている。

 極右派のオンライン上の投稿やチャットルームは、失敗に終わった6日の連邦議会議事堂襲撃、そしてバイデン氏の大統領就任以来、失望と抗議の声であふれている。

 中でも、米極右陰謀論「Qアノン(QAnon)」とその背後にいる謎の人物「Q」の信奉者たちの混乱は大きい。バイデン氏が大統領に就任しても、予言されていた混乱や裁きが起きない、もしくはまだ起きていないからだ。

 極右団体「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」のような超国家主義者「オウス・キーパーズ(Oath Keepers)」などの「ミリシア」と呼ばれる極右武装勢力、危険な白人至上主義者、ネオナチ(Neo-Nazi)勢力は、議事堂襲撃に参加したメンバーが次々と逮捕されていることもあり、一層息を潜めている。

 過激思想や国内テロの専門家は、これらの集団はトランプ氏の退陣に大きな打撃を受けていると指摘する。

 しかしまた、こうした集団は消滅に向かっているわけではなく、ある意味で現在はさらに危険な攻撃の実行にモチベーションが高まっており、より過激な集団が失望している大勢のQアノン信奉者を取り込もうとしているという。

 過激思想を研究する米人権団体の南部貧困法律センター(Southern Poverty Law Center)のマイケル・エディソン・ヘイデン(Michael Edison Hayden)氏は、「レトリックは熱を帯びたままであり、人々は冷めていない。彼らはバイデン氏にうまく適応していない」と言う。

 米安全保障コンサルティング企業のソウファン・グループ(Soufan Group)で政策・調査担当ディレクターを務めるコリン・P・クラーク(Colin P. Clarke)氏も、こうした集団は弱体化などしていないと指摘し、「極右が持つエネルギーと勢いは、近年のどの時期よりも強くなっている」と述べる。

「問題は、次に何が起こるかだ」

■怒りで団結

 トランプ氏が大統領を退任し、過激主義者らがフェイスブック(Facebook)やツイッター(Twitter)、パーラー(Parler)などのソーシャルメディアから追放されたことで、事態は沈静化すると予想した人は多い。しかし、これが怒りに拍車をかけ、互いに異なる極右集団を引き合わせることになった。

「彼らは、目指すものではなく反対するもので大きく一致し、団結している」とクラーク氏は指摘する。

 ツイッターなどのソーシャルメディアから追放されたユーザーの多くは、友好的ないくつかのプラットフォームに移動した。メッセージアプリ「テレグラム(Telegram)」に新設されたQアノンとプラウド・ボーイズのページは数十万人のフォロワーを獲得している。

 ヘイデン氏は、極右勢力が集まるための「インフラはまだしっかり存在している」と述べる。

 数万人のフォロワーを抱えるQアノンの「インフルエンサー」の他、トランプ氏の「選挙を盗むのはやめろ」運動をけん引したリン・ウッド(Lin Wood)弁護士やシドニー・パウエル(Sidney Powell)弁護士、マイケル・フリン(Michael Flynn)元大統領補佐官(国家安全保障担当)ら著名人が、この運動を続けるよう鼓舞している。

 懸念すべき点は、Qアノンやプラウド・ボーイズの穏健な賛同者たちが、より攻撃的な右翼過激派によってオンラインで「急進化」することだ。

 クラーク氏によると、破壊的な暴力行為を実現できるネットワークを構築するには、プラウド・ボーイズなどの集団からごく一部の賛同者を取り込むだけでよい。

 そして、「攻撃に全力を投じている人々が存在する」という。

 クラーク氏は、怒りのレベルを90年代前半と比較する。160人超が死亡した1995年のオクラホマシティー(Oklahoma City)連邦政府ビル爆破事件など、当時は米国内の反政府過激派による複数の襲撃事件が発生した。

 ヘイデン氏は、「暴力行為が発生する可能性は依然として高い」と述べる。(c)AFP/Paul HANDLEY