■負けられない競争

 しかしもう一つ、これとは対立する確固とした真実がある。経済協力開発機構(OECD)によると、今でも世界のエネルギー供給の85%近くは石炭と石油、ガスが占めており、毎年5000億ドル(約54兆円)規模の公的補助金が消費者と生産者の双方を支えている。

 この緊張関係がどのように、どれほど速く展開するか予想はつかない。だが、化石燃料企業が窮地に置かれていることに疑いはない。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が景気にもたらしたショックが、(炭素)排出の構造的なピークを早めた」と英金融シンクタンク「カーボントラッカー(Carbon Tracker)」の上席エネルギーアナリスト、キングスミル・ボンド(Kingsmill Bond)氏はAFPに語った。

「(コロナ)危機以前に、再生可能エネルギーはほぼ転換点に達していたので、これからのエネルギー需要の増加分はすべて再生エネルギーで賄うことができる」とボンド氏は解説。「そうなれば必然的に、化石燃料の需要がピークに達し、従って排出もピークに達する」。コロナの影響がなかった直近の年である2019年が、そのピークだった可能性が高いと言う。

 究極的には、気候変動を阻止する行動のいくつもの流れは一本にまとまるべきだと、独ポツダム気候影響研究所(PIK)のジョナサン・ドンゲス(Jonathan Donges)氏は説く。「大規模な変化が起きるためにはシナジー(相乗効果)が必要だ」

 社会的転換点とは逆に、気候システムには負の転換点がある。エクセター大学のレントン氏ら地球システム科学者は、気温に不可逆的で壊滅的な変化をもたらし得る15の引き金を突き止めた。

 産業革命以前に比べて気温が2度上昇すると、デンマーク領グリーンランド(Greenland)や南極西部の氷床の溶解が加速し、海面が13メートル上昇すると警告されている。

 アマゾン川流域が熱帯林からサバンナに変わってしまう転換点もある。シベリアの永久凍土に埋もれていた病原体や有害物質が放出される転換点や、北極や南極の氷冠が夏に消滅してしまう転換点もある。

 こうした変化が重なった結果、人類の行き着く先は、過去数千万年にはなかった「温室化した地球」と科学者が呼ぶ極めて生存に適さない状態だ。しかもこの変化は、元には戻らない片道切符だ。

「だがもちろん、氷床と社会システムには根本的な違いがある」とレントン氏は強調する。「私たちには自分たちの行動の方向を変える先見性がある」

 だとすれば真の意味で、人類は負けられない競争をしている。

「負の転換点を避けたければ、私たちは正の転換点、つまり社会的転換点を引き起こす必要がある」とレントン氏は続けた。「気候変動に徐々に取り組むのでは、もう遅すぎる」 (c)AFP/Marlowe HOOD