■「わが家」

 現在、一家はドイツ国境に近いオランダのダイフェンで暮らしている。茶色いれんが屋根の家には、ベッドルームが二つと緑豊かな裏庭がある。

 入り口には、「わが家」と書かれた玄関マットを選んだ。

 練乳を加えた甘いコーヒーを飲みながら、アフマドさんは「やり遂げました」とほほ笑む。大きなリビングの窓からの日差しはきらきらとしている。

 難民認定を受けたことで、一家には毎月1400ユーロ(約18万円)の給付金が支給される。そこから家賃や社会保障費、保険、電気代、電話代、インターネット使用料などを払う。

■「半分イラク人、半分オランダ人」

 週に2回、夫婦は近くの学校で語学の授業を受けている。教科書はオランダ語とアラビア語で書かれているため、学習ペースが上がる。

 アフマドさんは基本的なオランダ語を話せるが、アリアさんはなんとか話せる程度なので、長い話をするときは英語に切り替える。

 環境に一番適応しているのは、アダム君だ。巻き毛で茶色い目をしたアダム君は、オランダ語とアラビア語、英語を流ちょうに話す。自分は「半分イラク人で、半分オランダ人」のように感じているという。

 5歳になったアダム君は毎朝、自転車で通学。通っているのは、モンテッソーリ(Montessori)教育の学校だ。天気がいい日には、友達と近くの公園でサッカーをする。ダイフェンは、子どもが一人で外出できるほど治安がいい。