【1月20日 AFP】ポーランドで20日、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の著作「わが闘争(Mein Kampf)」のポーランド語の学術版が、初めて正規出版される。批判の声もあるが、編集者は「犠牲者らに敬意を払う」ことにつながると説明している。

 ヒトラーのナチズム思想をまとめた「わが闘争」が出版されたのは1925年。2016年に著作権が切れた後も、出版されることはまれ。

 同書のポーランド語訳に注釈を付けた学術版の出版準備を3年前から進めてきた、歴史家のエウゲニウシュ・クロル(Eugeniusz Krol)氏は「反対派はこの本の出版を、ナチズムの犠牲者らに対する侮辱だとみる。私はその逆だと思っている」と話している。

 ナチス・ドイツ(Nazi)の占領下で、ユダヤ系300万人を含む600万人が犠牲になったポーランドでは、扇動的な同書は海賊版や要約版のみが長年出回っていた。2005年には、当時著作権を保有していたドイツのバイエルン(Bavaria)州政府が、こうした海賊版の押収を求めていた。

 今回発売されるポーランド語版は、歴史書を専門とする出版社ベロナ(Bellona)が、初版3000部を発行する。同社は、宣伝は一切行わない方針だ。

「われわれはこの本を、広く入手しやすいものにするつもりはない」と話す同社幹部は、「1933年以降にドイツで起きたことは、世界の多くの場所できょう、あす、あさってにも起こり得る」と指摘。

 その上で、同書は何よりもまず「ほぼ目につかない格好で民主主義を解体し、全体主義体制を構築することはたやすいということへの警告」になるとしている。

 ポーランドでは、ファシズムや共産主義などの全体主義的なイデオロギーや、特定の民族や人種に対する嫌悪を喧伝(けんでん)する行為は禁じられており、有罪と認められた場合は2年以下の禁錮刑に処される可能性がある。

 ポーランドの首席ラビ(ユダヤ教指導者)のマイケル・シュードリッヒ(Michael Schudrich)氏は、学術版は「良い影響をもたらすもの」になる可能性があるとみており、「ナチズムや虚言、全体主義の危険性をより完全かつ深い形で理解する一助」になり得ると述べている。(c)AFP/Bernard OSSER