【1月20日 AFP】この日が米首都ワシントンで重大な一日になることは初めから分かっていた。連邦議会は、11月の大統領選でのジョー・バイデン(Joe Biden)氏の勝利を正式に認定する上下両院合同会議を開くことになっており、通常は儀式的な行事にすぎないが、今回は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が敗北を認めないという前代未聞の事態を受け、いつもより大きな意味合いを帯びていた。最終的にこの日は、トランプ支持者らが議会議事堂に乱入した日として歴史に刻まれることになった。あぜんとする光景をAFPの記者、カメラマン、ビデオジャーナリスト、17人のチームが現場で至近距離から捉えた。

(c)AFP / Olivier Douliery

 1月6日午前9時(日本時間同日午後11時)ごろ、カメラマンのソール・ローブ(Saul Loeb、37)とオリビエ・ドゥリアリ(Olivier Douliery)は検問所を通過し、議事堂や庁舎が集まるエリアに入った。「連邦議会議事堂(Capitol Hill)のセキュリティーは、基本的にはいつもと変わらなかった」とソールは振り返った。ソールは、米大統領を過去3代にわたって取材し、さまざまな受賞歴を持つ。「それが少し意外だった。抗議デモの参加者が大勢やって来ることは事前に分かっていたのに」

 議事堂内には、バイデン氏の勝利を認定するため、こういう機会でなければ開かれない上院(100議席)と下院(435議席)による合同会議に議員数百人が集まっていた。数人の共和党議員は大統領選の結果に異議申し立てを行うと明言しており、トランプ氏自身も証拠を示すことなく不正選挙だと主張し、腹心のマイク・ペンス(Mike Pence)副大統領に選挙結果を無効にするよう圧力をかけていた。

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 ナショナル・モール(National Mall)の反対側の端では、トランプ氏がホワイトハウス(White House)付近に集まった支持者数千人に向けて演説を行おうとしていた。支持者らは大統領を「守り」、「選挙を盗ませない」ため、全米各地から集結していた。トランプ氏の支持者は「選挙を盗ませない」というスローガンを掲げ、事実無根であることが証明されているトランプ氏の主張、すなわち、11月の大統領選でバイデン氏が不正操作によって勝利したという言い分を信じ込んでいた。

 ソールとオリビエが撮影準備をし、ベテランカメラマンのロベルト・シュミット(Roberto Schmidt)とビデオジャーナリストのアニエス・ブン(Agnes Bun)がトランプ支持者の群衆の中に入って行った。ドイツ系コロンビア人のロベルトは、「何千人も集まっていた。血気盛んで、ほとんどの人がマスクをしていなかった。トランプ氏が到着すると、彼らは熱狂した」と話す。「トランプ氏はしゃべり続け、議事堂まで行進しようと支持者に呼び掛けた」

 群衆の中には、AFPの取材チームにおなじみの顔触れもいた。これまで何度も開かれてきたトランプ氏の集会のどこかで見掛けていたからだ。

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 目立つ人物が1人いた。上半身裸でフェースペイントを施し、バッファローの角がついた毛皮の帽子をかぶっていた。ジェイク・アンジェリ(Jake Angeli)だ。彼の画像はたちまち世界中に拡散された。これまでにAFPはアリゾナ州とジョージア州で開かれたトランプ氏のイベントでアンジェリを撮影していた。

 アンジェリは、米連邦議会における暴動に関与した容疑で1月9日に逮捕・訴追された。アンジェリは米極右陰謀論「Qアノン(QAnon)」の「デジタル兵士」を名乗っている。Qアノンが唱えている陰謀論は、トランプ大統領は悪魔崇拝の小児性愛者が集まったリベラル派の世界的なカルト集団を相手にひそかに闘っているというものだ。アンジェリは昨年12月、超保守派の間で人気の米交流アプリ「パーラー(Parler)」に「われわれはアリゾナの前線にいる愛国者だ。われわれのプラスのエネルギーをワシントンにもたらしたい」と投稿していた。

 群衆の中には、自らを「白人ナショナリスト」や「リバタリアン」と称する人々もいた。トランプ氏が大統領選についての怒りをぶちまけるたびに、群衆はさらにあおり立てられた。当のペンス副大統領自身は、トランプ氏からの「正しいことをせよ」という呼び掛けや、バイデン氏の勝利認定を阻止するよう求める要請を公然と拒否していたが、それもお構いなしだった。

 トランプ氏は、「ペンシルベニア通り(Pennsylvania Avenue)を歩いて行こう(中略)そしてわが共和党議員らに(中略)わが国を取り返すのに必要な誇りと大胆さを与えてやろう」と演説。「今日ここに集まったわれわれは皆、選挙でのわれわれの勝利が、調子に乗った極左の民主党員に盗まれるのを許したくないと思っている」とも主張し、「選挙を盗ませないようにしよう」と呼び掛けた。

 正午頃までにロベルトは集会をいったん抜け出し、画像の一部をAFPの編集部に送信していた。「すると爆発音が聞こえたので、すぐ議事堂に引き返した」とロベルトは振り返った。「群衆が議事堂周辺のバリケードを押し倒していたのが見えた。…警官は、十分と言える数ではなかった」

(c)AFP / Roberto Schmidt
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「そこで、今起きていることを撮影できる高い場所を探した」

 これまで数え切れないほどのトランプ集会を取材してきたアニエスは、一番心配していたのは、新型コロナウイルスに自分が感染することだったと話す。トランプ支持者の多くはマスクをせず、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)も守らない。メディアが新型コロナウイルスの脅威を誇張して伝えていると思っているからだ。「でも、今回の集まりはいつもとは違うものになりそうだと気付いた。議事堂への乱入が起きる前の時点で、外の芝生に立っていたトランプ氏の支持者らは既にいきり立っていた」とアニエスは言う。

「支持者らは、記者を見つけると、誰彼構わず、罵声を浴びせ続けた。私は記者が集まっている場所の近くに陣取り、絶対に一人にならないようにした。デモ隊がさらに攻撃的になるかもしれないからだ。残念ながら、それは現実になった。目の前で、トランプ支持者の1人がカメラの前で中継していた特派員の足元に唾を吐いた。彼らは、見た目がアジア人っぽい記者には中国を非難する暴言や人種差別的な罵声を浴びせていた。アジア系フランス人記者として私は気が気ではなかったが、着けていたマスクで顔が部分的に隠れていて助かった」

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「午後になってデモ隊が警察のバリケードを突破し、議事堂の階段に向かって走り始めたときは、目の前で起きていることを信じ難い気持ちで撮影した。警察が押し返すだろうとずっと思っていたのに、それとは反対のことが起き、あぜんとしながら、彼らが建物内部に乱入する瞬間をライブで撮影した」

 アニエスは、動画カメラマンのダイアン・ドゥソボー(Diane Desobeau)と共に、頭に血を上らせたデモ隊に記者団が取り囲まれるのを目にした。記者の多くはやむなく、その場に機材を置いたまま避難したが、そうした機材はあっという間に暴徒に破壊された。アニエスは言う。「記者に対するあれほどむき出しの憎悪に直面することはめったにない。(6日に起きた)あの出来事が残念ながら証明したのは、私たち記者が世界的にますます脅威にさらされ、標的にされていることだ。民主的な国ですら、今起きている出来事を大変な状況下で記録しようとすると、ああいうことが起きる」

 議事堂内部では、カメラマンのソールが議事の休憩中に写真を送信していると、突然、スピーカーから警報が鳴り響いた。「建物内部で治安上の緊急事態が発生したため、屋内退避せよとのアナウンスだった」とソールは振り返る。デモ隊は、議事堂の中に前方と裏側からなだれ込み始めた。ロベルトは彼らの後を追い、以下の画像を撮影した。

(c)AFP / Roberto Schmidt
(c)AFP / Roberto Schmidt

「混乱した音や叫び声が聞こえた。…(上院の)議場のすぐ外に十数人のデモ参加者がいた」とソールは言う。

(c)AFP / Saul Loeb

「議事堂の中で一人で抗議行動をしている人だってめったに見ないのに、上院の議場の扉のすぐ外に十数人のデモ隊がいるなんて、とんでもなく異常な事態だった。その時点で、これは今日のネタになると思った」

(c)AFP / Saul Loeb

 だが議事堂内のデモ隊は、あっという間に数百人に膨れ上がった。老いも若きも、その多くが「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」と書かれた服や戦闘服を着ていた。

(c)AFP / Saul Loeb
(c)AFP / Saul Loeb

 この頃、警察が議会職員と議員らを避難させ始める様子をAFPが提携している写真販売代理店ゲッティイメージズ(Getty Images)のカメラマン2人が撮影した。

(c)GETTY IMAGES / AFP / Drew Angerer
(c)GETTY IMAGES / AFP / Drew Angerer
(c)GETTY IMAGES / AFP / Win Mcnamee

「外で何が起きているのか、いろいろな臆測が飛び交っていた」とオリビエは振り返った。建物が封鎖される前に、「外の群衆を別の角度から撮影できる場所を探すことにした」と話す。「いくつかのドアをノックした。途中で、思い切ってらせん階段を上ってみることにした。その先の廊下は行き止まりで、そこで見つけた一室は、群衆を撮影するのに理想的な真ん中の場所だった。そのとき、デモ隊がやって来るのに気が付いた」

 オリビエはソールと再び合流しようとしたが、トランプ支持者の一団が旗を振りながら、らせん階段のところまでやって来たのが見えた。「引き返して、その部屋にいた職員にデモ隊がやって来ると伝えることにした」とオリビエは振り返った。

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 それぞれの部屋にいた職員らはドアの前にバリケードを築くため、テーブルや椅子を(外にいるデモ隊に)気付かれないよう静かに移動させた。「そこで、テキストメッセージで発砲があったことを知った。私たちには、何が起きているのか全然分からなかった。1台のテレビがCNNを流していたが、音を立てないよう音量を下げた」。CNNは間もなくすると、自局の取材班の身に危険が及ぶ可能性があるため、議事堂内部からの中継をやめた。「八方ふさがりだった。最初は、ここで起きているいろいろな動きを見逃してしまうと思ったが思い直し、自分は職員たちと一緒にいるのだから、彼らのことを記事にしようと思い立った」とオリビエは言う。

(c)AFP / Olivier Douliery
(c)AFP / Olivier Douliery

 オリビエが撮影した画像は、ソールの画像と同じく、すぐに世界中の報道機関に取り上げられた。ソールがデモ隊を撮影し、オリビエは職員らが隠れて閉め切っていた部屋の中の様子を撮影していた。行動と反応を撮影せよ。フォトジャーナリズムの基本だ。

 ソールは、議事堂と、その中を走るたくさんの廊下や通路についての知識を駆使し、建物内を歩き回ってデモ隊を撮影した。「彼らは大抵、私たちを無視するか、撮影されるがままだった」とソールは語る。「少し陽気なムードで、彼らは自分が議事堂の中にいることに、はしゃいでいた。…彼らが何を計画していたのかは分からない。まさか、こんなところに自分がいるなんてと思っていたのかもしれない。次に何が起きるのか、誰もが知ろうとしていた」

(c)AFP / Saul Loeb

 ソールはそれから、下院議長で大統領権限の継承順位第3位のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)氏の執務室に向かった。「通常はアポなしでは誰も彼女の部屋に入ることはできない。常時、議会警察が外に立っている。あのときは、誰でも入り込んでやりたい放題できるようになっていた」とソールは話した。

「部屋の中には、何人かのデモ参加者がいた。『MAGA(Make America Great Againの頭文字)』の帽子をかぶってセルフィー(自撮り)したり、ソーシャルメディアのサイトに動画を配信したり、彼女の部屋をあさり、所持品や記念品を見るか、机の引き出しを開けて手当たり次第調べていた」。そこにいた10人ほどは、わが物顔に振る舞っていた。そのうちの女性の1人は、たばこに火を付けた。「その場にいたデモ隊の1人は、職員の机の上に足を投げ出して座り、(ペロシ氏の)書類に目を通していた。その様子を捉えた写真は、今は大勢の人の目に触れている」とソールは言う。

(c)AFP / Saul Loeb

 この画像は、6日の出来事と、米国の民主主義の制度が踏みにじられた行為を象徴するようになった。あるデモ参加者は、こんなメモを書き残していた。「われわれは引き下がらない」

(c)AFP / Saul Loeb

 その間、オリビエはバリケードで入り口をふさいだ部屋の中から、撮影した画像を送り続けた。「時々窓の外を見ると、デモ隊があちこちでよじ登っているのが見えた」とオリビエ。「そのうち、爆発音もさらに聞こえてきた。おそらく催涙ガスだろう。そして最初の死者が確認された。デモ参加者だ。オフィスの中は異様な雰囲気だった。皆、黙りこくっていた。誰もが部屋の隅で携帯電話を使っていた。突然、静かになった。そして少したってから、さらに悲鳴が聞こえた」

(c)AFP / Olivier Douliery
(c)AFP / Olivier Douliery

 警察だ! 警察だ! ここを開けろ! 「誰もがドアを開けるのをちゅうちょした。警官を装ったデモ隊だったら? だがドアを開けることになった。バリケードとして使っていたソファを後ろに引いた。すると、機動隊の装備をした警官たちが入って来て、『手を上げろ!』と叫んだ」

「私は撮影し続けた。現実味がなかった。警察官たちは全ての部屋を回ってデモ隊を捜した。私たちは身分証明書の提示を求められ、建物の外まで送り出された。いくつもの狭い地下道を武装した警官たちに護衛されて通り抜けた。彼らが既に確保していた避難路だ」

 事の成り行きが明らかになってくると、このたびの議会襲撃について何人かの議員は「クーデター」未遂との見方を示した。だがロベルトは、その見方には少し無理があるのではないかと思っている。

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「デモ隊は明らかに外で大混乱を引き起こそうとしていたが、警察の非常線が突破されるとは誰も思っていなかった」とロベルトは言う。「警察がほぼ無抵抗だったので、彼らは進み続けた。彼らが議事堂の中を歩き回っているのを見て思い出したのは、何年も前にハイチで大勢の人が高級ホテルに乱入してくるのを見たときのことだ。あのときの彼らは、プールで一泳ぎしたかっただけなんだよ!」

(c)AFP / Saul Loeb

 当局は徐々に建物内の統制を取り戻し始め、一区画を一つずつ片付けては次に進んだ。「米国の民主主義なんてもろいものだ。あんなことではいまさら驚かない。政治家はずっと前からこうした運動が広がるのを許し、酸素を与えてきた」とロベルトは言った。

 議事堂の安全が確保されると、ソールとオリビエは議会の合同会議の取材に戻った。議員らは動転していたが、やりかけていたことを終わらせようと午後8時に会議を再開した。

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 ペンス氏はトランプ氏の圧力に屈することはなく、選挙人の獲得数は306対232で正式に認定された。そして、午前3時30分過ぎに、バイデン氏が第46代米大統領、カマラ・ハリス(Kamala Harris)氏が黒人初、そしてまた女性初の次期米副大統領に就任することが確定した。

米首都ワシントンの議事堂で選挙人団の票が入った箱を運ぶ上院議員の奉仕係(2021年1月7日撮影)。(c)AFP / Olivier Douliery

 デモ隊がこの認定手続きに影響を与えたとすれば、それは彼らの意図とは逆に作用した。デモ隊の乱入で認定手続きは数時間遅れたものの、何人かの上院議員はその日に起きたことにぞっとして、異議申し立てを取りやめるか、異議を唱えようとする空気がしぼんでしまったのだ。

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 AFPの取材班は午前4時から6時の間に荷物をまとめ、その日の暴動で外出禁止令が出されたワシントンで、夜明け前の凍えるような寒さの中、家路に就いた。翌日までに議事堂の周りには、「よじ登れない」高さのフェンスが張り巡らされた。数か月前、ワシントンが人種差別反対デモで混乱に陥っていた頃にホワイトハウス周辺に設置されたようなフェンスだ。

このコラムは、ソール・ローブ、アニエス・ブン、ロベルト・シュミット、オリビエ・ドゥリアリが執筆したものを、仏パリのミカエラ・キャンセラ・キーファー(Michaela Cancela-Kieffer)と米首都ワシントンのトーマス・ワトキンズ(Thomas Watkins)が編集し、2021年1月9日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。