【1月15日 AFP】フランスで最も権威ある士官学校で9年前、慣例となっている新入生の「通過儀礼」の最中に訓練生1人が水死した事件で、仏西部レンヌ(Rennes)の裁判所は14日、将校ら3人に執行猶予付き禁錮6~8月の有罪判決を言い渡した。

 レンヌ近郊にあるサンシール陸軍士官学校(ESM Saint-Cyr)の訓練生だったジャラル・ハミ(Jallal Hami)さん(当時24)は2012年10月29日、同校の伝統を新入生に教えるためとして行われた夜間訓練に参加し、沼地を泳いで渡る途中で溺れて死亡した。

 事件をめぐっては、将官1人を含む軍人7人が過失致死罪に問われていた。

 裁判所は、被告7人のうち陸軍大尉、部隊長、事件後に除隊した元兵士の3人に、執行猶予付き禁錮6~8月の有罪判決を言い渡した。訓練を指揮していた将官など、4人は無罪となった。

 ハミさんの兄弟のラシドさんは、新入生へのしごきともいえる訓練が暴走したのは2年生の責任が大きいと非難してきた。判決を受け、「あなたたちは私の兄弟を再び裏切った」と怒りをあらわにした。

 事件当夜、新入生らはヘルメットをかぶったまま水温9度の沼地を泳ぎ、43メートル先の対岸まで渡るよう指示された。浜辺への上陸を模した訓練だったとされる。

「ワルキューレの騎行(Ride of the Valkyries)」として有名な独作曲家リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)の楽劇序曲の旋律が流れる中、新入生らは冷たい水に飛び込んだが、すぐに数人が溺れそうになった。救命ベルトが投げ入れられたものの、ハミさんの行方はその時点で分からなくなっていた。

 消防隊への通報は1時間後だった。ハミさんは翌30日午前2時35分、沼地のほとりで遺体で見つかった。

 検察当局は公判で、この「通過儀礼」を「制御不能のテストステロン」にあおられた「狂気」の沙汰だと非難し、被告のうち6人に最長で執行猶予付き禁錮2年を求刑していた。

 サンシール陸軍士官学校は、1802年に皇帝ナポレオン・ボナパルト(Napoleon Bonaparte)が創立した由緒ある学校。ハミさんはアルジェリア内戦を逃れて1992年に母と兄弟と共に渡仏し、サンシール入学をずっと夢見ていたという。(c)AFP